ダウンロード

在京AMラジオ局が、FM放送を始めるそうだ。ネット放送で無限のチャンネルが聞ける時代に、FM放送を始めるセンスもNOTTV並みだが、その使う電波が90MHz帯(アナログテレビの1チャンネル)というのは見逃せない。テレビを立ち退かせてVHF帯を「有効利用」するはずが、迷走したあげくにラジオになるとは、とんだ笑い話だ。

このニュースを見て、長谷部氏の「法律家共同体のコンセンサスに国民は従え」という言葉を思い出した。彼はある意味で的確に、日本の官民関係を表現している。電波を動かしているのも、電波官僚の独裁ではなく、官民の電波共同体のコンセンサスなのだ。

2010年に電波部案をくつがえして実現した700/900MHz帯の再編でも、NECや富士通などのITゼネコンが執拗に反対した。ある討論会で私が総務省ワーキンググループの技術者に「電波部案が技術的にナンセンスだということはあなたも認めたのに、なぜそれに固執するのか」ときいたところ、「それしか関係者のコンセンサスがとれないのだ」という。

この関係者とは、電波部とその天下り官僚とITゼネコンの電波共同体だ。彼らはLTEでクアルコムなどに先を越され、国際周波数で競争が始まったら全滅するので、日本だけのガラパゴス周波数で国際競争を阻止しようとしたのだ。
これは原発でよく批判された「原子力村」と同じ構造で、業者の側の情報量が圧倒的に多いので、役所は彼らにまかせきりになっている。700MHz帯の場合は、早くからITゼネコンが半導体や基地局を設計し、その情報をもとに電波官僚は国際会合でも議論していた。

そのころ国際担当の官僚に話を聞いたことがあるが「先進国で日本だけ帯域が違うので、iPhoneなどは導入が数年おくれる可能性がある。これは上司にも報告したが、『もう決まっている』と取り合ってもらえなかった」という。つまり役所が決めているようにみえて、実は業界が「電波共同体」の既得権を守っているのだ。

こういう構造が残っているのは、電波や原子力のように技術的に高度で、役所に中身がわからない業界が多い。電波の問題で象徴的だったのは、初期に出てきた700MHz帯の割り当てに「PFU」と書いてあったことだ。これはFPU(Field Pickup)つまりテレビ中継の帯域だが、今は通信衛星を使うので、こんな障害物があると電波の飛ばない帯域で中継はしない。

ところが電波官僚はそれも知らないで、業者のいいなりに割り当てを決めていたのだ。これについて山田肇氏と私がパブリック・コメントを出したところ、珍しく総務省が誤りを認め、770~806MHzの36MHzが開放された。これがきっかけになって、日本も国際周波数になったのだ。

おかげで日本でもiPhoneが使えるようになったが、ITゼネコンのつくっていた半導体は使えなくなり、国産のスマホは壊滅した。自業自得である。孫正義氏には「池田さんのおかげで数百億円助かった」と感謝された。