増補新版 法とは何か (河出ブックス)
日本人には宗教がないとか規範意識がないとよくいわれる。新渡戸稲造も『武士道』を書こうと思い立った動機を「宗教なしで、いったいどのようにして子孫に道徳教育を授けるのですか?」と質問されて答えられなかったからだと書いている。

たとえば「人を殺してはならない」という規範は、先験的には導けない。ユダヤ教の場合にはモーゼの十戒に書かれているが、日本に宗教がないとすれば、そういう規範は成り立たないはずだ。

しかし最近の安保騒動で感じるのは、むしろ規範意識の異常な強さだ。そこでは憲法が、モーゼの十戒のように規範として絶対化されている。反対派のヒーローになった長谷部恭男氏は、本書で「憲法がないと国家もない」と書いている。

そして彼は、憲法解釈を決めるのは法律家共同体のコンセンサスであり、「国民には、法律家共同体のコンセンサスを受け入れるか受け入れないか、二者択一してもらうしかない」という。これは立憲主義の対極にある思想だ。かつて日本を無謀な戦争に導いたのは、このように「自分は憲法の上に立つ」と信じる人々だった。

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