近衛文麿 (人物叢書)
近衛文麿といえば、政治的基盤が弱く大衆の人気だけで支えられたポピュリストで、軍部に迎合したあげく行き詰まって政権を投げ出した無責任男というイメージが強いが、本書は明治憲法の制度的な欠陥に悩み、それを何とか克服しようとして挫折した悲劇の宰相として描く。

たしかに近衛の行動は機会主義的だが、彼自身はそれなりに(よくも悪くも)一貫していた。若いころ書いた「英米本位の平和主義を排す」からずっと白人の世界支配に対する違和感をもち、アジアが自立しなければならないと考えていた。日本がアジアの中心となるためには、各省や陸海軍がバラバラの明治憲法ではだめで、政党を超えた「新体制」が必要だと考えていた。

そういう近衛をもっとも強く批判したのは、大政翼賛会を「幕府」だとした極右の「護憲勢力」だった。彼らは「国体」を根拠にして天皇機関説を否定し、大政翼賛会も葬った。天皇以外に主権者があってはならないという彼らの実定法原理主義は、解釈としては正しかったが、憲法を自己目的化して条文を絶対化すると政治が機能しなくなる。

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