大分岐―中国、ヨーロッパ、そして近代世界経済の形成―
2001年に発表された、グローバル・ヒストリーの古典。今までの「アジアはなぜ遅れたのか」という問いを逆転し、1800年には中国が世界の最先進国だったのに、ヨーロッパが急速に発展して大分岐が起こったのはなぜかという問題を実証的に調査する。

その原因は「資本主義」でも「産業革命」でもない。中国には産業も技術もあり、労働力は全ヨーロッパを上回った。ヨーロッパが中国を追い抜いた最大の要因は、グローバル化で獲得した新しい資源だった。新大陸の発見で広大な土地が利用できるようになり、石炭の発見で工業が発展したからだ――というのが本書の仮説である。

この大胆な仮説は大論争を呼び、その後はポメランツも修正したが、ヨーロッパ中心主義を否定し、アジアを中心にしてグローバル化を数量データで実証する手法は、「カリフォルニア学派」として歴史学に大きな影響を与えた。本書を読まずに、21世紀の世界史は語れない。
原著が出てから15年間に、グローバル・ヒストリーは大きく発展した。その後の実証研究では、本書でポメランツが主張したほど18世紀の中国の優位は大きなものではなく、すでに一人当り所得ではイギリスなどに抜かれていた。しかしヨーロッパではなく中国を基準にして世界史を考えるという発想の転換は重要で、これによって従来の発展段階論のような図式は過去のものになった。

『大分岐』では「資源一元論」ともいうべき歴史観がとられていたが、その後ウォーラーステインなどの影響を受けて、グローバルな支配関係に注目し、『グローバル経済の誕生』では、戦争を中心にして世界史を描いている。

この学派からはRosenthal-Wongのようにもっと精密な実証研究も出てきたが、都市国家と軍事革命が重要だったという考え方は同じだ。このように中国を「アジア的生産様式」の遅れた国とみるのではなく、それ自体の歴史のメカニズムを分析したという点では、内藤湖南などの日本の東洋学が先駆者ともいえ、ポメランツも再評価している。

このように中国を中心に世界史をみる発想は、最近の中国の急速な経済発展やアメリカの大学の中国系研究者の増加などが影響していると思われるが、彼らの母国に対する評価は高くない。この分野の代表的研究者である王国斌(Bin Wong)も「永遠の愚民政治」と呼んでいる。