核爆発災害 ―そのとき何が起こるのか (高田純の放射線防護学入門シリーズ)
ニューズウィークにも書いたことだが、ビキニ環礁の核実験で被曝した第五福竜丸の久保山愛吉無線長の死因は肝炎である。放射線障害で肝炎になることはありえないので、彼の死因は「死の灰」ではなく、輸血で感染したウイルス性肝炎と推定される。

この事件を追跡した南海放送のドキュメンタリーが映画になり、日本記者クラブ賞を受賞したりしてまた話題になっているが、南海放送の行なった他の漁船の調査でも、発癌率は上昇していない。
しかし1954年3月に、この事件を読売新聞が「邦人漁夫 ビキニ原爆実験に遭遇 23名が原子病」というスクープで報じたため、久保山の死因が核実験の死の灰だという誤解が世界に広がった。本書はこの問題を世界各地で調査した高田純氏の報告書(復刊)だが、ソ連や中国の核実験では作業員が放射線障害になったケースもあるが、アメリカでそういう事例はない。

つまり第五福竜丸の悲劇の原因は核実験ではなく、輸血を行なった東大病院の医療過誤である疑いが強いのだ。しかし輸血を行なった医師が、その後、放射線医学総合研究所の所長になったため、この経緯は明らかにされなかった。放医研の調査結果が公表されたのは2000年代になってからで、ここでは輸血が原因と報告している。

この件については病理解剖の詳細なデータがあり、少なくとも久保山の死因が死の灰ではないことは100%確実である。したがって読売新聞の大スクープは誤報であり、専門家もそれを指摘してきた。しかし読売はそれに答えず、いまだに「語り継ぐ 福竜丸被曝60年」といったキャンペーンを張っている。

慰安婦問題と同じく、いったん世界に広がった誤解を解くことは容易ではない。政府がやると「隠蔽工作」などと疑われて逆効果になることも、慰安婦で経験した。世界の誤解を解くには、まず読売がみずからの報道を検証し、第五福竜丸事件の真相を明らかにすべきだ。