ピケティについて同じ話を何回もしているうちにわかってきたが、ほとんどのジャーナリスト(つまり平均的ビジネスマン)はあの本の内容を理解していない。経済学者は「理論的根拠がない」と批判しているが、ジャーナリストの関心は不平等という結果と累進課税の提案だけなので、話題がそこに集中する。これはピケティの議論が混乱していることにも原因があるが、何度も同じことをいうのは飽きたので、少なくとも次の3点を理解してほしい。
  1. 「資本主義の根本的矛盾」r>gだけで格差は説明できない:この不等式はrをROEと考えると自明だが、金利と考えるとおかしい。ピケティはこれをすべての(人的資本以外の)資産の平均収益率と考えているが、これでは格差を説明できない。図10.9のように不等式が成り立っていた第2次大戦後に、格差は大きく縮小したからだ。

    10-9


  2. 所得分配はβの増加でほとんど説明できる:むしろNewsPicksにも書いたように、「資本主義の第1基本法則」α=r×βで考えたほうがわかりやすい(αは資本分配率、βは資本/所得比率)。これは資本ストックが増えると資本所得が増えるという当たり前の話だが、図5.3のように多くの国で所得格差の動きとほぼパラレルになっている。

    5-3

  3. アメリカは例外である:ではβが大きいほど格差が大きいかというと、そうではない。極端に不平等なアメリカのβは日本より低い。他方、rは高いので、資本ストックの大きさよりROEの高さやスーパーマネジャーなどの報酬体系が影響している。

要するに、格差の性格は国ごとに違うのだ。極端な不平等は英米の現象であって、大陸とは原因が違う。大陸の格差は特権階級の相続などの影響が大きいが、英米では株主資本主義と累進税率の緩和の影響が大きい。日本はどちらとも違い、特殊な雇用慣行とグローバル化の影響が大きい。これらを一緒にして「資本主義の一般法則」を導くことはできない。