イスラーム国の衝撃 (文春新書 1013)
普段は献本をいただいたからといって書評することはないのだが、本書がオフィスに届いた日に人質事件のニュースが出たので読んでみた。

「イスラーム国」は国と名乗っているが、実態はアル=カーイダの新バージョンである。宗教的にはスンナ派で、指導者バグダーディはイスラームの最高指導者「カリフ」を名乗るが、別に世界のイスラム教徒がカリフと認めたわけではない。政治的には従来のテロリストと変わらないが、イラクとシリアの一部を領域支配して注目された。
イラク戦争でいったん沈静化したようにみえた中東のテロリストがまた勢いを取り戻したのは、「アラブの春」で独裁政権が次々に倒れたためらしい。それまで政権に抑え込まれていた各国のイスラーム勢力が武装し、国境を超えて集まったのだ。中東を支配するようになったアメリカへの反感も強い。

この背景には、英仏の植民地支配がある。彼らは植民地を委任統治として(形の上では)独立国として支配し、中東を分断した。この植民地支配と戦う思想として、異教徒を排除するイスラーム原理主義が広い支持を得たのだ。

それがさらに進化したのが、「イスラーム国」のグローバル・ジハードである。彼らは民族や国家を超えて、世界を支配しようとする。数万人のテロリスト集団が国家に対抗できるようになったのは、ハイテク化した兵器が世界の市場で流通して戦争が民営化された結果だ。

彼らを有名にしたのは人質を処刑する動画だが、これもハイテク化のおかげだ。欧米人や日本人を標的にすることで強い関心を引きつけ、インターネットで世界に影響を与えるようになった。誘拐は彼らの資金源になっており、身代金は年2000万ドル以上にのぼるという。

20世紀後半の平和を支えたのは、主権国家が圧倒的に大きな武力を独占して個人を無力化する暴力の非対称性だが、ハイテク化によってこの非対称性が崩れようとしている。植民地支配や独裁政権のもとでは曲がりなりにも法治国家が存在したが、法の支配が完全に失われると、残るのはあからさまな暴力の支配である。

資本主義がグローバル化してオフショアで地下経済化する一方、テロもグローバル化して聖戦(ジハード)が拡大する。主権国家が欺瞞的な制度だとしても、ないよりはましである。