ろくでなしのロシア─プーチンとロシア正教
今年の世界経済の震源地は、おそらくロシアだろう。プーチンを理解するには、ロシア正教を理解することが不可欠だ。彼はロシアの伝統的なツァーリであるとともに、ロシア正教会を支配するカリスマにもなりつつあるからだ。

ロシア正教は、キリスト教から出ているが特殊ロシア的に土着化したスラブ系信仰である。聖書はほとんど読まないで、教会は信徒を叱る。民衆は教会の権威に従うことで「人生の意味」を教えてもらう。ドストエフスキーの「大審問官」の世界である。
キリスト教の特徴は教権と俗権の分離だが、ロシア正教ではツァーリが教会を支配する神権政治になった。これは「タタールの軛」と呼ばれるモンゴル人による征服のあと、16世紀にイワン4世がロシアを統一したときできた伝統である。

これは皇帝が「天子」だった中国と似ているが、ロシアでは正教会の精神的権威が強く、宗教的な正統性をめぐる争いが絶えなかった。東方教会の教義はマリア信仰が重要な地位を占めるなど異教的だが、ローマ帝国が没落した後は正教会(Orthodox Church)を名乗った。

こうしたロシア正教の権威を利用したのがレーニンだった。彼はロシア社会民主党の主流だったメンシェヴィキを「異端」として罵倒し、自分こそ「マルクス=レーニン主義」の正統だと主張した。西欧的な社民主義は、スラブ的な家父長主義に慣れた民衆には根づかなかった。

プーチンは、こうしたツァーリズムの伝統を典型的に継承している。彼は事実上の終身大統領となり、政府がロシア正教を支援して実質的な「国教」にしようとしている。彼に対抗できる政治的勢力は、国内にはない。それをくつがえす力があるとすれば、経済危機だろう。

日本やEUの問題が主権の不在による「決められない政治」だとすれば、ロシアの問題は主権の過剰である。これは中国と共通の「ユーラシア中央型専制国家」で、日本とは対角線上にある。ロシアとつきあうには、まず相互理解は不可能だということを理解したほうがいい。