アメリカに亡霊が出る――ピケティという亡霊が。

『21世紀の資本』と題した、英訳で700ページ近い専門書がアマゾン・ドットコムのベストセラー第1位になり、フランス人の著者トマ・ピケティ(パリ経済学院教授)がワシントンにやって来ると、ロック・スター並みの聴衆が集まりました。
 
保守派は「マルクス主義の本がベストセラーになるのは、アメリカの歴史はじまって以来の危機だ」と警戒していますが、この本はマルクスの『資本論』とはほとんど関係ありません。「数量経済史」と呼ばれる最新の統計手法を使って、過去200年以上の欧米諸国のデータを分析した本です。
 
ただ、その結論は、マルクスと似ています。ヨーロッパで資本主義が始まってからずっと、資本家と労働者の格差は拡大してきたというのです。リベラル派の経済学者、ポール・クルーグマン(プリンストン大学教授)は「ピケティは不平等の統一場理論を発見した」と絶賛しました。
 
アメリカの労働者の賃金の中央値はここ40年ほとんど同じですが、上位1%の人々の所得は2.6倍以上になり、GDP(国内総生産)の20%を超えました。このような格差の拡大は一時的な問題だと思われ、戦後ずっと多くの国で所得分配は平等化しているとされてきましたが、ピケティによればそれは例外だったというのです。
 
日本では別の形で不平等が拡大しています。2000年代に入って名目賃金が下がり続け、非正社員の比率が労働者の4割に近づく一方、企業は貯蓄超過になっています。余剰資金は資本家にも労働者にも還元されないで、経営者の手元現金(利益剰余金)になっているのです。
 
ピケティの本はフランスで2013年に刊行されましたが、2014年に英訳が発売されたあと、アメリカで爆発的な人気を呼びました。しかし原著で969ページ、英訳で696ページもあり、たくさん統計データが並んで、読みやすい本ではありません。

これは過去200年の欧米の歴史的データを分析したものですが、経験的データばかりで理論的な説明がほとんどありません。彼のいう「資本主義の根本的矛盾」などの法則がどういう理論から出てくるのか、それが普通の経済学とどういう関係にあるのかがわからないのです。
 
『21世紀の資本』はそれほど難解ではないのですが、説明が冗漫で同じような話が繰り返され、分量があまりにも多いので、最後まで読むことは困難でしょう。本書は『21世紀の資本』の内容を、日本人向けにコンパクトにわかりやすく解説したものです。