丸山眞男話文集 続 3
また丸山で申し訳ないが、次の次の次の本のメモ。本書は彼の最晩年の座談会を収録しているが、かつては「自粛」していた歴史観を率直に語っていておもしろい。その内容は、ほとんど『WiLL』に掲載されてもおかしくない「歴史修正主義」である。彼は日本が大陸を「侵略」したという歴史観を否定する。
「侵略」という観念は、僕に言わせれば、第一次大戦後できた観念であって、その当時の法的概念でいえば特殊権益ですよ。他の国家に特殊権益を持ち、それが条約上認められた場合には、その特殊権益を侵すものがあったら軍隊で排除するのは、合法的なの。今パナマでアメリカがやっているのはそれなんですよ(p.276)。
侵略という概念ができたのは1928年の不戦条約であり、その当時ヨーロッパ諸国のもっていた特殊権益を侵害する行為が侵略と定義された。したがってイギリスがインドを植民地にしたのは侵略ではないが、日本が1931年に満州国を建設したのは侵略とされた。

しかしリットン調査団は、日本の満州占領を既成事実として認め、関東軍の撤兵は求めなかった。これは今の核拡散防止条約と同じで、植民地は既得権として認め、報復の応酬を防ぐのが国際連盟の役割だった。当時、世界最大の植民地国家だったイギリスも、こういう「現実主義」を支援した。

さらに丸山は日米開戦について、いったん国際連盟が認めた満蒙の権益を、1941年になってハル・ノートで否定したアメリカにも責任があるという。
リットン報告書でさえ日本の特殊権益は認めている。ただ自衛権の範囲を逸脱していると。日本は怒って国際連盟を脱退しちゃう。脱退することないんですよ。自衛権は認めているんだから。[…]

ところがアメリカは権益をもっていないから、[1922年の]九ヶ国条約を振り回すわけですよ。九ヶ国条約は国際連盟以後だから、権益否定の論理に立っているでしょ。中国から満州を含めて全面的に撤兵。それをあの段階[1941年]で言い出すわけです。これはワイズではないですね。[…]和平派の東郷茂徳でさえサジを投げたのは、ハル・ノートなんです。(p.278~9)
三国同盟があったので、ハル・ノートがなくても日本は対米戦争をやっただろうと丸山は認めるが、それでも「アメリカが100パーセント正しかったと言えるかというと、アメリカはワイズではなかったですね」という。当時の陸軍の中でも田中新一などの強硬派は圧倒的多数ではなかったので、アメリカが「満州までの撤退」を求めていれば、日米開戦はなかったかもしれない。