永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)
本書は去年買って読んだが、あまりにも下らないので資源ゴミに出してしまった。最近、賞をもらったりして話題になっているので、記憶に頼ってコメントしておく。

最大の欠陥は、事実関係の誤りが多すぎることだ。最初に出てくる「政府はSPEEDIのデータを被災者に隠蔽して米軍に流していた」という話は、3年ぐらい前に流れたデマである。そのデータは隠蔽したのではなく、津波で電源が落ちて放射性物質の計測ができなくなり、架空の予測データを出していたから発表しなかったのだ。この他にも、原発事故で「政府は国民の生命を守る気がなかった」などと根拠のない恐怖をあおっている。
全体の論旨は、そう目新しいものではない。『戦後史の正体』と同じく「戦後の日本は対米従属の奴隷だった」という被害妄想史観である。実質的な占領統治が続いているというのは多くの人の歴史認識であり、他ならぬ安倍首相がそれをもっとも強く意識している。彼のいう「戦後レジーム」は、本書のいう「永続敗戦状態」とほぼ同じだ。

それは著者や孫崎氏には屈辱だろうが、多くの日本人はアメリカの核の傘にただ乗りして平和と繁栄を享受してきた。むしろ問題は、この平和がいつまで維持できるのかということだ。本書は安倍首相を初めとする右派が憲法を改正しようとしてアメリカとの対立が深まるというが、これは逆だ。アメリカは極東の軍事的負担を軽減するために、集団的自衛権や軍事力強化で日本に自立を求めているのだ。

ただ日米同盟が終わるリスクが大きいという本書の予想は正しい。そのとき著者は日本が憲法を改正して、また対米戦争をやるという妄想を抱いているようだが、これも逆だ。いま最大のリスクは北朝鮮の政権崩壊であり、そのとき起こりうる「第2次朝鮮戦争」に対して、日本はほとんど準備ができていない。著者はこういう「有事」のリスクにまったく関心をもたないで「アジアへの侵略責任」を語っている。

潮匡人氏も指摘するように、日本は第1次大戦に参戦しながら、ほとんど派兵しなかった。このときも野党や新聞は「戦争に巻き込まれるな」と反対したが、その結果、同盟国の不信をまねいて日英同盟は破棄され、日本は孤立化の道を歩んだ。日米同盟を守るには、その軍備にふさわしい憲法をもつ「普通の国」として自立し、応分の負担をせざるをえない。その体制を整備する上でまず必要なのは、著者や朝日新聞のような平和ボケを駆逐することである。