21世紀の資本
ようやく日本でもピケティの訳本が出るようだ。最初は2017年4月と予告されていたが、アメリカでアマゾンのベストセラー第1位になったので、英語からの重訳に変え、たくさんの訳者を動員して12月9日発売にこぎつけたらしい。

原著で969ページが訳本で760ページというのは(たぶん注を省略した)抄訳だろう。5960円というのは、みすずとしては社運を賭けたバーゲンプライスで、初版1万部ぐらい見込んでいるだろう。しかし残念ながら、この訳本はおすすめできない。訳者の山形浩生が2010年にこんなことを書いているからだ。
さて、この処方箋は簡単だ。インフレ期待を起こせばいい。これほど簡単なことはない。日本銀行がお金をいっぱい刷り、これからも当分そうしますよ、と言えばいい。いままでの日銀による金融緩和は、お金はとりあえず刷るけれどすぐやめますからね、と言い続けていたのでインフレ期待はまったく上がらなかったのだ。
いま読むと気の毒になってくるが、彼の期待どおり、黒田総裁は「日本銀行がお金をいっぱい刷り、これからも当分そうしますよ」といって「2年で2倍」の異次元緩和をやった。その結果はどうだっただろうか。


ご覧のように金融政策で動くコアコアCPIは横ばいで、エネルギー価格を含むコアCPIは、原油高と原発停止で1.1%上昇した。つまりインフレのほとんどはエネルギー価格の上昇によるもので、起こったのは景気回復ではなく、貿易赤字とゼロ成長だった。最近は原油価格が大幅に下がったので、9月のコアCPI上昇率は1%を割ると予想されている。ピケティは「中央銀行の力は過大評価されている」と警告して、こう書いている。
最近の「非伝統的金融政策」では、中央銀行に過大な役割が期待されているが、それはあくまでも金融調節を行なう機関であって、産業振興や財政出動の代わりをするものではない。金融政策は景気対策に使うべきではない。裁量的な資金配分には民主的なコントロールが必要であり、中央銀行にはそれがないからだ。(第16章)
ピケティと山形のどっちが正しいかはもはや明らかだが、これをごまかすために山形が「非伝統的金融政策には大きな役割が期待されている」などと意図的に誤訳するおそれもないとはいえない。専門家は、原著か英訳を読んだほうがいい。

とはいっても多くの一般読者にはこの大著を読み通す時間も気力もないと思うので、私はこの訳本と同時に、経済学の知識ゼロでもわかる『日本人のためのピケティ入門』(仮題)というパンフレットを東洋経済新報社から出す予定だ。同時に、ピケティが2時間でわかるセミナーも開く予定である。