歴史は後ろから見てはだめで、同時代の人々の立場にならないと真相はわからない。その典型が冷戦だ。今では資本主義と社会主義が対立するのは当然だと思う人が多いだろうが、1917年にロシア革命が起こってから第2次大戦まで、冷戦は起こらなかった。それどころか、ルーズベルトとスターリンは同盟国として戦い、ヤルタ会談では握手したのだ。
ガディスの『冷戦』は、冷戦の原因は核兵器だという。第2次大戦まで米ソの経済力は10倍以上違い、戦争でソ連は2700万人もの人命を失った。そのままでは戦後の世界は、アメリカの一極支配になってもおかしくなかった。しかしアメリカが核兵器の秘密保持を厳格にしなかったため、ローゼンバーグ夫妻などのスパイがその技術情報をソ連に売り、早くも1949年にソ連は核実験に成功した。

これによって「2大超大国」という幻想ができた。実際には、ソ連は世界のGDPの2%程度の小国であり、通常戦争ではアメリカに勝てなかったのだが、核兵器では対等になった。この力でヨーロッパの半分を占領し、中国や北朝鮮を傘下に収めた。それがみずからの軍事力の重みで崩壊するまでに、半世紀近くかかった。

ルーズベルトが日米戦争を挑発しなければ、少なくともアジアではソ連の勢力拡大はなく、彼が核兵器を開発しなければ、冷戦も起こらなかっただろう。彼はアメリカの歴史上もっとも偉大な大統領の一人として知られ、世界のリベラルの元祖だが、その罪も世界史的に大きい。