海賊と資本主義 国家の周縁から絶えず世界を刷新してきたものたち
近代の主権国家(領土国家)は縄張り争いに勝った組織暴力だと論じたのはTillyだが、それに対して海を暴力で支配し、ドゥルーズ=ガタリのいう脱テリトリー化を行なった資本主義は、海の組織暴力である。

イギリスの繁栄の基礎を築いたのが海賊だったことは偶然ではない。それどころか、大英帝国そのものが史上最大の海賊だったといってもよい。彼らが新大陸で奴隷を使って収奪した富は、その後400年にわたる資本主義の本源的蓄積になった。マルクスがのべたように、資本主義の原初には暴力があるのだ。
マルクスが発見したのは、市場経済から資本主義は出てこないということだった。スミス的な市場経済は歴史とともに古く、それがもっとも高度に発展したのは中国だった。しかし市場経済は、成熟するにつれてレントがなくなり、均衡状態に近づく。新古典派経済学は、18世紀の中国にもっともよく当てはまる。

このような陸の国家に対して海の資本主義が挑戦した。オランダは16世紀から東南アジアを支配し、イギリスと海賊行為を争った。海賊が世界をすべてテリトリーに収めた19世紀末に資本主義は完成し、世界は宗主国によって再テリトリー化された。このテリトリーの再分配をめぐって行われたのが2度の世界大戦だったが、これに勝った英米が20世紀後半の世界秩序を安定させた。

本書はこうした資本主義と主権国家のカルテルにネット上の海賊が挑戦しているというが、それは国家に対する本質的な脅威ではない。問題はピケティも指摘するように、ネットを使って国家の支配を逃れる富が世界の1割近いことだ。

向こう100年を考えると、法人税率はゼロに近づき、所得税もタックス・ヘイブンを使える大富豪ほど税率の低くなる逆進的な税になるだろう。そもそも海賊的なシステムである資本主義を土地で囲い込む近代国家に限界があるのだ。

カール・シュミットのいうように近代が「陸と海の戦い」だとすると、自由に移動して富を掠奪し、それをオフショアに蓄積する海賊に、陸の国家は勝てない。英米ではそれが富の格差をもたらしているが、海洋国家だった日本はグローバル化に乗り遅れ、富を国内に貯蓄している。これが日本経済の衰退する最大の原因である。