田淵記者も事実関係を正確に把握していないので、細かいことだが確認しておく。朝日の杉浦編集担当は、9月11日の記者会見で「強制連行は、そういった事実はないと認めた。しかし、いわゆる慰安婦、自らの意思に反して軍に性的なものを強いられる、広い意味での強制性はあったと考えている」と答えた。
これは8月5日の検証記事と矛盾する。そこには、こう書かれている。
慰安婦の強制連行の定義も、「官憲の職権を発動した『慰安婦狩り』ないし『ひとさらい』的連行」に限定する見解と、「軍または総督府が選定した業者が、略取、誘拐や人身売買により連行」した場合も含むという考え方が研究者の間で今も対立する状況が続いている
この記事では「対立する」といいながら、同じ記事で「日本の植民地下で、人々が大日本帝国の「臣民」とされた朝鮮や台湾では、軍による強制連行を直接示す公的文書は見つかっていない」と書き、最後の「読者のみなさまへ」でも「軍などが組織的に人さらいのように連行した資料は見つかっていません」と書いている。

論旨が一貫していないが、しいていえば「定義については対立があるが、軍による強制連行の証拠はない」と読める。つまり朝日新聞は、人身売買を強制連行に含めていない。これは秦氏も吉見氏も一致する、正しい定義である(つまり対立はない)。

では(国家による)強制連行はあったのか。これについて吉見氏は明確に「なかった」と認めている。たとえば1997年に国会議員に説明した『歴史教科書への疑問』では、次のように答えている。
次に、徴募時の強制はどうであったのかということです。朝鮮半島や台湾では、官憲による奴隷狩りのような連行があったかどうかということは、資料では確認できないのが現状であるということであります。
しかし人身売買などを含めると「広い意味での強制連行」はあるというのが、当時の吉見氏の説明だったが、これは混乱するので、最近は「広い意味での強制性」と言い換えている。8月6日のコメントでは、こう言っている。
朝日新聞は今回の特集で、女性たちが意思に反して慰安婦にさせられたという強制性に問題の本質があることを明確にした。軍・官憲による暴力的な強制連行がなければ日本政府に責任はないという、国際的に全く通用しない議論がいまだにあることを考えれば、改めて問題の所在を明示したことは意義があった。
つまり「定義をめぐる対立」はないのだ。検証記事も吉見氏の表現をほぼ踏襲しており、これは杉浦氏の説明とも一致する。整理すると、

 広義の強制=強制連行+人身売買

というのが、秦氏も吉見氏も朝日もNYTも一致する定義だが、このうち強制連行の証拠は何もない。したがって吉田清治だけでなく、「慰安婦の強制連行」も誤報なのだ。1985年以降の記事のデータベースで「慰安婦 強制連行」で検索しただけで1046件の記事が見つかるので、92年ごろまでの慰安婦に関する記事のほとんどが誤報だ。杉浦氏が認めたのだから、朝日はこの問題を整理し、もう一度取り消して謝罪する必要がある。