ロイターのインタビューで、浜田宏一氏が「私はインフレが欲しいわけではない。2年で物価2%にこだわる必要はない」と言っている。「君子豹変」してリフレを放棄するのは結構なことだが、かつての「デフレを放置する白川総裁は犯罪的だ」とか「日銀がエルピーダをつぶした」という暴言の責任はどう取るのか。朝日新聞のような「いい逃げ」は許されない。
7月のコアコアCPI上昇率は年率0.3%(消費税の影響を除く)と2%にはるかに及ばないが、コアCPIは1.3%まで上がった。これはインフレ目標のおかげではなく、浜田氏も認めるようにエネルギーの供給制約が原因だ。「デフレ脱却」しても生活はよくならないばかりか、実質賃金は年率3%以上も下がった。人手不足でも時給は上がらない。なぜなら人件費以外のコストが上がったからだ。

これは浜田氏のような「どマクロ」経済学では理解できないが、彼のきらいなフリードマン以降の均衡分析で理解できる。いま起こっているインフレは、総供給ASが低下してコストが上がった結果、潜在GDPがYからY'に低下してインフレ率がPからP'に上がったものだ。潜在成長率がゼロで需給ギャップもゼロという現状が、図のY'である。
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したがって公共事業や減税(増税の先送りでも同じ)で総需要ADを増やしても、その需要は長期的に維持できないので、GDPはY'に戻ってインフレだけがP"になる。これはコストプッシュの「悪いインフレ」であり、浜田氏もいうようにインフレ自体には意味がない。

必要なのは「第3の矢」などという漠然とした話ではなく、供給不足を解消して潜在GDPを上げることだ。人手不足をもたらしているのは絶対的な労働人口の枯渇ではなく、労働市場のゆがみである。これは次のUV分析でわかる。縦軸は失業率で横軸は欠員率(人手不足)だが、失業と人手不足が同居している。

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労働市場にゆがみがないとすると、失業があるときは人手不足はゼロ(縦軸上)で、人手不足のときは失業はゼロ(横軸上)になるはずだから、原点との距離が労働市場のゆがみの尺度だ。これでみると70年代に比べて2010年代は大きく右上にシフトして硬直性が高まったが、2000年代に比べると原点に近い。これは非正社員によって欠員を埋めたためだ。

最近の労働市場の「非正規化」で柔軟性は上がったが、正社員と「ブラック」な非正社員の身分格差が広がった。居酒屋のバイトは足りないが、製造業の事務職は余り、人手不足なのに実質賃金は下がる。したがってやるべきことは総需要の追加ではなく、市場のゆがみを減らすこと、労働市場でいうとUV曲線を原点に近づけることだ。正社員の過剰保護をやめ、身分格差をなくすことが重要だ。

もう一つは、エネルギー供給を正常化することだ。法的根拠なく止めたままの原発をどうするのか。安倍政権は、先送りしてきた供給側の問題にいやでも直面せざるをえない。