『フライデー』の記事を菅官房長官が否定したことで話題になった「クローズアップ現代」をYouTubeで見た。結論からいうと、この記事には明らかな誤りがあり、信用できない。
「菅さんは秘書官を数人引き連れて、局の貴賓室に入りました。籾井会長も貴賓室を訪れ『今日はよろしくお願いします』と菅さんに頭を下げていました。その日の副調整室には理事がスタンバイ。どちらも普段は考えられないことです」(NHK関係者)
これは間違いだ。国会議員が出演するとき貴賓室を使うのは当たり前で、NHKは幹部が出迎える。官房長官なら会長があいさつしてもおかしくない。毎週の「日曜討論」でも、副調整室には理事が来る。これは「普段」を知らないアルバイトの話だろう。
近くに待機していた秘書官が内容にクレームをつけたというのだ。[…]「局のお偉方も平身低頭になり、その後、籾井会長が菅さんに詫びを入れたと聞いています」。
これも嘘だ。番組で打ち合わせにない質問をするのは当たり前で、政治家や秘書官が不快感を示すこともたまにあるが、その程度の話で会長が謝罪することはありえない。

世の中には、政府とNHKの関係について誤解があるようだ。NHKが権力に弱いことは事実で、私も政治番組をやっていたときは、副調に理事が来るのには違和感があった。しかし秘書官に何かいわれたぐらいで、会長が謝罪することはありえない。そんなことをしたら、政治家になめられるからだ。

さらに「放送が終わった後、国谷さんや番組スタッフは居室(控え室)に戻るのですが、この日、国谷さんは居室に戻ると人目もはばからずに涙を流したのです」というのもありえない。居室と控え室は別で、居室には彼女の机があるが、大部屋なので、そんな場所で涙を流す人はいない。彼女は感情を表に出すタイプではない。

番組の内容については、週刊誌のいうのとは別の意味で気になった。集団的自衛権についての質問が憲法解釈に片寄り、安全保障全体についての議論がまったくない。官房長官がそういう話をしようとすると、国谷さんがさえぎって「日本から攻撃する可能性も…」などと話を戻す。攻撃された場合の話は何もしない。

国谷さんは私と同世代だから、それほど左翼的なバイアスはないが、NHKの政治部がこういう認識だとすると問題だ。官房長官も示唆したように、朝鮮半島の危機はかなり切迫している。韓国で軍事衝突が起こった場合、自衛隊と米軍の共同作戦にいちいち国会の承認を求めるわけには行かない。憲法解釈の神学論争をしている場合ではないのだ。