田母神戦争大学 心配しなくても中国と戦争にはなりません
田母神俊雄氏は、都知事選では一番まともな政策を出していた。本書も軍事についての話はさすがに専門家と思わせる。特に中国の脅威が、世間でいうほど大きいものではないという指摘はおもしろい。

人民解放軍は人数だけは多いが、その装備はロシアにも劣るお粗末なもので、自衛隊とは比較にならないので、中国から攻めてくる可能性はないという。しかし自衛隊の戦力がいかに優秀でも、政府が弱腰だと尖閣諸島のような挑発を行ない、徐々に勢力を拡大しようとするだろう。
中国が尖閣諸島をほしがる理由は資源ではなく、太平洋に出るルートを確保したいからだ。核戦争になったとき、反撃しにくい原子力潜水艦に搭載したミサイル(SLBM)が最大の戦力になる。これを太平洋に出すためには、尖閣周辺の海域を中国の領海にする既成事実をつくりたいのだという。

あとは元秘書との漫談で、「中国が世界を共産化しようとしている」とか「アメリカは日韓を離反させるために慰安婦問題をけしかけている」とかいう陰謀史観が続く。安全保障のジレンマを朝日新聞の造語と思い込んで(笑)とつけているのは、基礎知識の欠如を疑わせる。「憲法を改正しなくても、非常事態に際して首相が超法規的措置をとればいい」という人物が、今も自衛隊員に広く支持されているのは危ない。

歴史認識に至っては、昔のトンデモ論文のくり返しだ。「大東亜戦争は白人支配に対する正しい戦争だった」とか「日米戦争をしなかったらフィリピンのようにアメリカの植民地になっていた」などというのは笑い話だが、彼の認識は安倍首相に近いといわれているので笑ってもいられない。

気になるのは、自衛隊を蔑視する朝日新聞などのゆがんだ平和主義が、自衛隊員に屈折した被害者意識を植えつけていることだ。政治が行き詰まったとき、こういう感情が昔の「青年将校」のような形で暴発するリスクも考えたほうがいい。しかし朝日の「自虐史観」を批判する人々が、こういうトンデモ史観に固まるのも困ったものだ。事実にもとづいて、明治以来の歴史を検証する必要がある。