日経BPクラシックス 資本論 経済学批判 第1巻1
ピケティの『21世紀の資本論』が、Amazon.comでベストセラー第1位になった(まだ続いている)。マルクスの本が第1位になるのはアメリカ史上初だろうが、700ページもあって中身はかなりハードなので、普通のアメリカ人には最後まで読めないと思う。

だがマルクスの本が売れるのはいいことだ。私の学生のころは彼は信仰の対象で、その後は悪の元凶になり、そして忘れられた。今ではアリストテレスとかトマス・アクィナスみたいな歴史上の人物だろう。そういう古典として普通に読んだほうがいい。
マルクスの労働価値説は経済理論としてはナンセンスだが、ピケティもいうように資本蓄積論の部分はおもしろい。新古典派には資本という概念がないからだ。オリバー・ハートは、彼の企業統治理論の先駆はマルクスだといっている。
本書で提案されているアプローチは権力に関心をもつ点で、資本家と労働者の関係についてのマルクスの理論と共通点がある。特に雇用者は労働者の使う物的資本を所有するがゆえに労働者に対して支配力をもつ(したがって労働者の剰余を搾取できる)という発想は同じである。(原著p.5、強調は引用者)
マルクスの主著はもちろん『資本論』だが、ドイツ観念論の特殊な概念で論理が構成されている上に衒学的な引用が多く、党派的プロパガンダや論敵に対する当てこすりが混じって、いやみで難解だ。邦訳では中山訳が読みやすいが、索引がないのは学術書として失格。

『共産党宣言』は、グローバル資本主義の破壊的な本質を描いた文書として今でも重要だ。膨大な草稿の中では、『経済学・哲学草稿』が「労働の疎外」を批判するヒューマニズムと誤解されて一時は読まれたが、思想的に重要なのは「人間は社会的諸関係のアンサンブルである」という新しい唯物論を着想した『ドイツ・イデオロギー』だ。『資本論』の草稿『経済学批判要綱』も重要だが、邦訳は絶版(英訳がペンギンで出ている)。

いきなり『資本論』を読むのはおすすめできないが、世の中の入門書のほとんどは彼を「階級闘争」を闘った社会運動家として紹介しているので読む価値がない。彼の思想を紹介したものとしては、廣松渉の『今こそマルクスを読み返す』があるが、本当は絶版になった『唯物史観の原像』が最高の入門書だと思う。私の今度の本は、マルクス入門もかねている。

なおピケティを読む読書塾を来月やります。残席わずか。