小保方氏が不服申し立てする予想外の展開になったので、理研の「研究論文の疑義に関する調査報告書」を読んでみたが、疑惑が解明されたとは到底いえない。ここで研究不正があったと結論した2点について、小保方氏の弁護士はこう反論している。
レーン3の挿入について:Figure1iから得られる結果は,元データをそのまま掲載した場合に得られる結果と何も変わりません。そもそも,改ざんをするメリットは何もなく,改ざんの意図を持って,Figure1iを作成する必要は全くありませんでした。見やすい写真を示したいという考えからFigure1iを掲載したにすぎません。
これに対して調査報告書は、このレーン3が単純に挿入されたものではなく、STAP細胞(4、5)のTCR再構成をきれいに見せるために画像を1.6倍に引き伸ばすなどの加工が行なわれているとし、次のように結論している。
データの誤った解釈へ誘導することを、直接の目的として行ったものではないとしても、そのような危険性について認識しながらなされた行為であると評価せざるを得ない。T細胞受容体遺伝子再構成バンドを綺麗に見せる図を作成したいという目的性をもって行われたデータの加工であり、その手法が科学的な考察と手順を踏まないものであることは明白である。よって、改ざんに当たる研究不正と判断した。
この「危険性についての認識」が理研の規定にいう研究不正にあたる「悪意」だと解釈したのだろう。小保方氏も意図的な加工であることを認めているので「改竄」といえるだろうが、その動機がわからない。彼女もいうように、この合成写真は「元データをそのまま掲載した場合に得られる結果と何も変わらない」からだ。

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右がもとの画像である。挿入されたレーン3は4、5のSTAP細胞との比較のためのポジティブ・コントロールであり、STAP細胞の画像は(引き伸ばし以外は)加工されていない。これがもともとなかったTCR再構成を捏造したというのなら致命的だが、この程度の違いのためにややこしい加工をした動機がわからない。

同じことは、最大の疑惑である博士論文の画像のコピペについてもいえる。調査委員会はこう結論している。
論文1の画像には、学位論文と似た配置の図から切り取った跡が見えることから、この明らかな実験条件の違いを認識せずに切り貼り操作を経て論文1の図を作成したとの小保方氏の説明に納得することは困難である。このデータはSTAP細胞の多能性を示す極めて重要なデータであり、小保方氏によってなされた行為はデータの信頼性を根本から壊すものであり、その危険性を認識しながらなされたものであると言わざるを得ない。よって、捏造に当たる研究不正と判断した。
ここでも「危険性の認識」は推定にとどまり、動機がわからない。小保方氏もいうように「真正な画像データが存在していることは中間報告書でも認められ,画像データをねつ造する必要はない」からだ。その「真正な画像データ」が次の画像である。

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この画像は2月19日に作成したものだから、論文を書いたときにはなかったわけで、「取り違え」という説明はおかしいが、同じような画像は他にもあったはずだから、これも博士論文をスキャンした画像をわざわざ使う意味がわからない。

手続きの誤りは明らかで、STAP細胞の存在は科学的に証明されていないので、Nature論文は撤回すべきだ。理研の追試でも、STAP細胞の決定的な証拠とされたTCR再構成が見られなかった。若山氏が彼女から受け取ったはずのSTAP細胞も、偽物だった疑いがある。彼女だけがSTAP細胞をつくる「ゴッドハンド」をもっているとも考えにくい。

しかし小保方氏が「存在しないSTAP細胞を捏造した」とはいえない。少なくとも彼女の実験データではTCR再構成も多能性も確認されているはずだが、実験ノートがほとんど残っていない(彼女が破棄した可能性もある)ので立証できない。もしSTAP細胞が存在するとすれば、それをこの程度のテクニカルな間違いで葬ってしまうのはもったいない。

懲戒処分の場合は挙証責任は理研にあるので、この程度の証拠だけで懲戒解雇などの重い処分をするのは困難だろう。小保方氏の主張も聞いた上で、時間をかけて第三者が検証する必要がある。本質的な問題は、STAP細胞が存在するかどうかを科学的に確認することである。