理研の「最終報告」はまったく最終ではなく、予想どおりバッシングの嵐だが、ちょっと気になることをメモ。いうまでもなく私は専門家ではないので、論理的な疑問だけを書く。毎日新聞のまとめによると、理研が小保方氏をクロと認定したのは、次の2点だ。
  1. 小保方氏の博士論文と酷似した画像がある→捏造と認定
  2. 遺伝子の実験データ画像が切り張りのように見える→改竄と認定
このうち重要なのは1だが、彼女の弁明では「酸処理による実験で得られた真正な画像であると認識して掲載したもので,単純なミスであり,不正の目的も悪意もありませんでした。真正な画像データが存在していることは中間報告書でも認められています。したがって,画像データをねつ造する必要はありません」と述べている。これは次の図だ。

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理研の規定では「悪意のない間違い」は研究不正として処罰されないらしいので、何を「悪意」とみるかが問題になる。博士論文の部位も実験手法も異なる写真を貼り付けたことを「単純なミス」という話には疑問があるが、理研が証拠を保全していないので、この主張をくつがえすことはむずかしい。彼女が実験データの入っているPCを「私物」として提供を断ったのもあやしいが、私物で研究させたのは理研の手落ちだ。

しかし本質的な問題は、STAP細胞は存在するのかということで、今回の調査報告書ではこれには答を出していない。この問題を追跡しているKnoepflerは、ありうる間違いとして次の3つをあげている。
  1. 細胞が死ぬとき起こる自家蛍光
  2. 他の種類の多能性細胞の混入
  3. 実験者のバイアス
このうち重要なのは2で、体細胞にストレスをかけてSTAP細胞を作製したと思ったサンプルが、実はもともと体内に含まれていた未分化な細胞を選択した結果だった可能性がある。もしそうだとするとSTAP細胞の存在は否定されるが、彼女は免責される。これは「悪意」のない間違いと主張できるからだ。弁護士のねらっているのはここだと思われる。

理研の規定違反かどうかだけを争うなら、今回の論文がまったく事実誤認だったとしても、懲戒解雇をまぬがれることができる。これは科学者の倫理としては問題があるが、理研の規定に欠陥があるので、彼女が自発的にやめないかぎり解雇はむずかしい。たとえ解雇しても、訴訟を起こされたら理研は勝てないだろう。

こういう事態になっても彼女が粘っているのは、まだSTAP細胞の存在を信じているからだと思われる。その根幹をくつがえすには、第三者が実験し、彼女のこれまで作製した(と思った)STAP細胞がすべて誤りだったことを証明するしかない。拙速に処分するより、科学的に決着をつけたほうがいい。

意外に多くの反応があったので追記。博論の件は彼女が「単純ミス」と言い張ったらくつがえすのはむずかしいが、電気泳動の画像は彼女が「見やすい写真を示したいという考えから Figure1i を掲載した」と故意を認めているので、「改竄」と認定して処分できるかもしれない。ただ、これ一つだと懲戒解雇するほどの重大な違反かどうかが問題だろう。