「原発推進映画」として話題のドキュメンタリーの試写を見た(4月19日から上映)。率直にいって、教科書としてはよくできているが、映画としてはおもしろくない。ロバート・ストーン監督の主張が表に出過ぎていて、観客を引き込む力がない。
ただ、アメリカの状況はよくわかった。原発は非常に政治的な問題で、民主党が人々の不安を「命か金か」というプロパガンダに利用してきた。これはスリーマイル島やチェルノブイリ事故の恐怖が強かった80年代には大きなインパクトがあり、「チャイナ・シンドローム」などの映画や"NO NUKES"などのコンサートが人気を博した。

私も当時、NHKで原子力の番組をつくったが、当然ストーリーは反原発だった。「原発は危ない」という話は映画や音楽になるが、推進派の話はならない。この映画のように、論理が必要だからである。映画に登場する多くの人も、最初は反原発の活動家だったが、彼らが「転向」した理由は地球温暖化だという。

安いが危険な軽水炉が最初に実用化したのは不幸だった。もともと本命は増殖炉だったが、政治的に挫折した。それは技術的な理由というより、プルトニウムを大量生産する核拡散のリスクが原因だった。この映画の推奨するIFRも、アメリカではだめだろう。「シェール革命」で資源輸出国になるアメリカで、そんなリスクを取る理由がない。

この映画の指摘は、むしろエネルギー自給率が4%しかない日本に当てはまる。OECD諸国の中で安いほうだった日本の電気料金は3・11以降、30%以上も上がった。このまま原発を止め続けたら2倍以上になり、逆進的な「電気税」が貧困層の生活を直撃するだろう。

日本にイノベーションの余地は少ないが、ビル・ゲイツの進行波炉などの第4世代原子炉を開発しているのは日本メーカーである。この分野では、アメリカを逆転できる可能性もある。あと10年もして客観的に状況を見られるようになれば、人々は原子力を求めるようになるだろう。そのときのために、原子力技術は温存したほうがいい。