戦争の世界史(上) (中公文庫)
アゴラの書評でも紹介したが、日本の戦争は西洋に比べると牧歌的だった。鉄砲が最新兵器で、西洋の戦争を一変させた爆弾や大砲などの重火器は、明治時代まで導入されなかった。大砲が最初に発明されたのは13世紀の中国だが、これもほとんど発達しなかった。それは東洋が基本的に平和だったからだ、と本書は論じる。

それに対して中世後期から戦争の続いた西洋では重火器が発達し、軍事革命が起こった。この軍事力が経済発展の原因となったのであり、その逆ではない。通商や貿易を行なうためには、船の安全が必要条件なのだ。初期の海上貿易を保護したのは民間の護衛サービスだったが、こうした海賊を国営化することによって海軍ができた。
地上戦では、城壁やクロスボウなどの守備技術が発達するにつれて、それを破壊する武器は重火器しかなくなり、巨額の資本を調達できる国が勝ち残った。イタリアのように小さな都市国家が分立している状態では、物量の戦争には勝てなくなった。

中世の戦争は短期契約の傭兵によって行なわれたが、戦争が日常的に行なわれるようになると、契約ベースの傭兵は金で敵国に転ぶので危険だった。戦争に勝ち残ったのは、徴兵制で市民を戦争に動員し、租税でそのコストを徴収する「国家資本主義」をとったスペインやイギリスだった。

産業革命を生んだのは、このような軍事革命だった。東洋のように平和が長く続くと、重要なのは労働集約的な農業技術だが、戦争に勝ち残ることが絶対条件となった西洋では、資本集約的な軍事技術がもっとも重要になり、そのために機械化が進んだ。これが結果的に経済発展の原因になった。

そして経済発展で軍事力が強化され、それを使って植民地支配を拡大する…というループによって、19世紀に大英帝国は世界を征服した。彼らの経済的優位が決定的になると、アダム・スミスなどの経済学者が「自由貿易」や「市場経済」の利益を説いて工業製品の輸出を促進し、イギリスの世界支配がさらに拡大されたのだ。

2000年までの千年紀は、このように戦争の規模が拡大し、それが国家のあり方を決め、資本主義を生み出した特異な時代として歴史に残るだろう。その極致である核兵器によって、世界は1000年以上前の平和な時代に戻るかも知れないが、全滅するかもしれない。それは人類がどこまで賢明になれるか次第である。