NYタイムズが「安倍政権がNHKに政治的圧力をかけて政権寄りにしようとしている」と報じている。中身はワンパターンの「日本の右傾化」キャンペーンだが、最近の一連の出来事をアメリカがどう見ているかを知るには興味深い。ケネディ大使がNHKの取材を拒否しているのも、これと関係があるかもしれない。
きのうの言論アリーナでも片山さつき氏や長田達治氏と話したが、こういう日本に対する誤解をただすのは非常にむずかしい。いろいろな問題が複合しているからだ。慰安婦問題は単なるでっち上げだが、籾井会長は戦時売春と強制連行の区別さえつかないでコメントし、朝日新聞につけ込まれた。

もう一つは靖国参拝などの歴史観である。これは趣味の問題で、百田尚樹氏のような「皇国史観」は個人として発言するのは自由だし、どうせ多数派にはならない。彼は安倍首相が公然といえない「自虐史観」への反発を代弁しているのだろう。ただし「南京大虐殺はなかった」というのは事実誤認であり、日本軍の侵略を正当化するのは批判されてもしかたがない。

もう一つは原発問題だ。この記事が問題にしている中北徹氏の話は、都知事選の最中に「原発事故の被害は大きいので保険がかけられない」などという細川陣営のナンセンスな主張を支持するもので、却下されて当然だ。民放でも、選挙期間中は特定の候補を支持する話は禁止である。

公平に見て、NHKの報道は朝日新聞やNYTに比べれば中立である。私が政治番組をやっていたころは「政治的公平」をうるさくいわれたが、普通の番組で政治的圧力がかかることはない。どこのメディアでも、経営陣や政治部は政権寄りで、社会部は反権力だ。安倍首相のねらいはNHKを対外広報に使おうということだろうが、会長や経営委員が現場に影響を及ぼすことはできないし、及ぼすべきでもない。

ただ片山氏もいうように、アメリカ政府の見方もNYTに近づいてきたことには注意が必要だ。第2期オバマ政権は左傾化し、少数民族の発言力が大きくなっている。この中で強い発言力をもっているのが、中国や韓国のロビーだ。外務省は対外広報がへたで、長田氏もいうように「日本は完敗」である。政府はNHKに介入するより、外務省の広報予算を増やし、各国大使館にもっと対外広報をさせるべきだ。