原発の問題は、細川護煕氏のように「日本が滅びる」とかいう情緒的な議論ではなく、なるべく定量的に考える必要がある。原発を今すぐ止めてゼロにする費用は明らかだが、その便益はよくわからない。山崎元氏によればそれは「心理的な安全・安心」だというが、その便益が費用を上回るかどうか、ちょっとチラシの裏でシミュレーションしてみよう。
このまま原発をまったく動かさないで廃炉にすることは、技術的には可能である。法的にも「即時廃炉法」のような法律を国会で可決すれば、民主的な手続きで廃炉にできる。しかし憲法で禁止する財産権の侵害にならないためには、国家賠償が必要である。逆にいうと、賠償費用が便益を下回るならやってもいい。それは現実にどれぐらいかかるだろうか?
  • 核燃料を化石燃料で代替する燃料費:毎年3兆円以上
  • 電力会社の資産の毀損:少なくとも4社が債務超過になり、4兆円以上の損害
  • バックエンド:直接処分しても9兆円以上かかる廃棄物処理の投資が全損
  • 廃炉費用:50基で5兆円以上(福島第一だけで1兆円)かかるが、これも全損
燃料費の損失がどれぐらい続くかは計算のしかたによるが、このまま原発を止め続けて火力のコストが今後10年で原子力に追いつくと仮定しても、廃炉の機会費用はざっと40兆円になる(今まで3年間の9兆円は除く)。これは直接費用だけで、日本経済へのダメージはもっと大きい。

細川氏も錯覚しているように、よく反原発派が「バックエンドで*兆円かかる」などと批判するが、過去のコストが「天文学的」であることは問題ではない。それが発電で回収できない機会損失(逸失利益)が費用になるのだ。また原発を全廃すると、その穴は化石燃料で埋めなければならないので、大気汚染や気候変動のリスクは増えるが、ここではそういう間接費用は考えていない。

この直接費用だけでも国家賠償すれば「即ゼロ」は可能だが、40兆円といえば税収の1年分がすべて吹っ飛ぶ。それ以上の「心理的な安全・安心」の便益があるのだろうか。大島堅一氏も山崎氏も答えられなかったが、ぜひ定量的かつ具体的な回答をお願いしたいものだ。