日経ヴェリタスの「円安でも伸びぬ輸出 常識覆した日本企業の変化」という記事に驚いた。その内容にではなく、まだそういう「常識」があったことにである。甘利経済再生相は「貿易立国がゆらいでいる」というが、ゆらいでいるどころか、日本はとっくに貿易立国ではないのだ。

上の図のように、日本は3年前から所得収支の黒字が貿易収支の赤字を埋める構造になっているが、昨年末からいよいよそれが埋められなくなった。その最大の原因は原発を止めて毎日100億円ドブに捨てているからだが、もっと構造的な問題は2012年までの円高局面で製造業が海外移転を進めたことだ。

電機製品は、すでに輸入超過である。液晶テレビの90%以上は輸入品だから、このように生産がグローバル化すると、円安でコストが上がり、1ドル=80円台で採算の取れるはずだった電機製品が採算割れになる。おまけに円資産が大きく減価したので、新たな海外投資がむずかしくなる。

毎日新聞の山田孝男編集委員は「経済学の教科書に従えば、貿易赤字はそれ自体が損や負けであることを意味しない」という。これは正しいが、その理由がお笑いだ。「貿易赤字の裏側には、それに見合う物品の獲得がある」からだというが、どんな債務にも(複式簿記で書けば)資産が対応している。だからいくら借金してもいいということにはならない。

問題は貿易収支ではなく、所得収支も含めた経常収支である。この赤字がネットの対外債務で、これもそれ自体がいい悪いということはないが、内需の不足を外需(輸出)で埋めていた日本経済にとっては悪いニュースだ。

あとはJBpressの記事を読んでもらおう。日経や毎日の記者がこんな認識だから、頭の悪い株式トレーダーは円安=株高と思い込んで、これまで日本株を買ってきたのだろう。あいにくユニクロや任天堂をみてもわかるように、1ドル=100円以上の円安は業績悪化要因なのだ。