さっきの記事のおまけ。朝日新聞のような一国平和主義はモラルハザードの一種で、タレブのいうスティグリッツ症候群である。スティグリッツは論文でGSE(政府系住宅金融機関)を賞賛したが、それが金融危機を起こしたとき何も責任を取らなかった。
朝日新聞は秘密保護法が戦争につながるというが、その因果関係は何も語らない。軍事機密を守ったら、なぜ戦争になるのだろうか。彼らの主張するように安倍政権が戦争の準備をしているとしても、先制攻撃はできない。今の憲法には宣戦布告の規定がないからだ。しかし憲法は自衛権を否定していないというのが政府の見解だから、反撃はできる。

つまり現行憲法で想定されるのは、昔の軍部のような侵略ではなく中国の挑発であり、これは次の図のようなテールリスクだ。軍備に手を抜いていると、日常的には少しもうかるが、戦争になったら破滅する。


金融危機も財政破綻も大震災も原発事故も同じで、これを管理するには「金融工学」のような期待値と分散によるリスク管理は役に立たない。朝日新聞の「戦争は起こらないのだから戦争に備えるな」というキャンペーンは「原発事故は起こらないのだから避難体制を考える必要はない」といった電力会社と同じ安全神話である。

マスコミは口先だけで商売しているので、スティグリッツと同じく平時はテールリスクを無視してもうけ、有事のときは「政府が悪い」と言って逃げることができる。戦争を実行した東條英機は死刑になったが、それをあおった朝日新聞の緒方竹虎は公職追放だけですんだ(のちに解除されて自由党総裁)。

これはラジャンの指摘したように、CDSトレーダーが過剰なリスクを取ってもうけ、破綻したらクビになるだけですむのと同じペイオフの非対称性が原因だから、朝日新聞が過剰なテールリスクを取るのは合理的なのだ。

こういう問題に一般的な解決法はないが、タレブが提案するのはバフェットのいう"skin in the game"である。これは日常的なリターンとテールリスクを連動させる制度設計で、たとえば金融危機が起こったら金融商品のトレーダーが巨大な債務を負うようにすれば、報酬体系は対称になる。

朝日新聞のようなモラルハザードを防ぐには、戦争が起こったらマスコミが戦費を1割負担するという制度をつくってはどうだろうか。そうすれば彼らもまじめに戦争のリスクを考えるだろう。実際に武力衝突が起こったら朝日新聞社は倒産するだろうが、もともと倒産は時間の問題だから大した問題ではない。