原子力損害賠償制度の研究――東京電力福島原発事故からの考察
福島第一原発事故の処理には疑問が多い。原賠法の第3条但し書きがなぜ適用されなかったのか、法的整理はなぜできなかったのか…本書は、こうした問題に答えている。

最大の疑問は、「巨大な天災地変」のときは免責するという第3条但し書きが、なぜ適用されなかったのかということだ。これについては、東電の勝俣元会長がこう答えている。
弁護士さんたちも、基本的に3条ただし書きでやって(法的に)勝つ可能性があると話していました。ただ、その裁判の相手が、国じゃなくて被災者になってしまう。例えば10万人の被災者の方がいたとして、何らかの格好で賠償を求めてくるのも裁判で扱って、そのときに「3条ただし書きだから我々は無罪。免責だよ」と主張して裁判をするとしましょう。[…]被害を与えておいて、避難所にいる被災者の方相手に裁判して「我々は無罪だ」と主張することができるのか、と考えました。
これだけではわかりにくいが、本書の解説によるとこういうことだ:かりに第3条但し書きで東電が免責になっても、それは無過失責任がなくなるだけで、民法709条による過失責任は残る。多くの被災者が過失責任の賠償を求めて訴訟を起こしたとき、争って勝てるのか。たとえ勝ったとしても、社会的に指弾をあびるのではないか――こう考えて、東電は最終的に但し書きの適用を求めなかったのである。

もう一つは会社更生法を適用しなかったことだ。実は勝俣氏は事故直後、旧友の与謝野馨氏に会社更生法の適用を要望する手紙を出していた。そのほうが通常業務と切り離して、迅速に事故処理ができるからだ。しかし勝俣氏は、のちにこれも撤回した。その理由は「賠償総額と廃炉費用が決まらない」ことだというが、これはおかしい。通常の更生手続きでも、最初から債権の総額は確定してない。

最大の問題は本書も指摘するように、経産省の松永事務次官が銀行団に対して暗黙の債務保証をしたことだ。本書が「法的整理では賠償債権者が多数になって更生手続きができない」という官僚の主張を認めているのは疑問だ。今の支援機構のスキームでも、賠償債権者は膨大に発生している。むしろBAD東電を切り離して国有化し、特別立法で国が賠償を一元的に処理したほうがいい。

いずれにせよ、現在の原賠法は欠陥だらけで、次に事故が起きたらまた大混乱になることは必至だ。合理的な解決のできる法律に改正する必要がある。本書は著者の博士論文なので一般むけではないが、上のような事実は関係者にもあまり知られていないので、一般書でドキュメントとして書き直したほうがいいと思う。