日銀の10月の政策決定会合の議事録が話題を呼んでいる。「2年で物価目標2%を達成する可能性が高い」と明記した10月の「展望リポート」に、9人の審議委員のうち3人が反対した理由が公開されたのだ。
白井さゆり氏は物価見通しに「下振れリスク」を明記して「物価安定の目標の実現に向けた道筋を順調にたどっている」という記述を「緩やかにたどっている」と変更する議案を出した。佐藤健裕氏は「2%程度を見通せるようになる」に変更する議案を出し、木内登英氏は「極端な追加措置の観測が市場で高まれば経済の不安定化につながる」として緩和を「2年間程度に限定する」という議案を出したが、いずれも1対8で否決された。

今のところ、9人のうち黒田総裁の方針に反対しているのは3人で、彼らが多数派になるかどうかはわからない。また彼らの議案もバラバラで、少数派が結束する兆しも今のところない。しかし彼らが共通に「2%は無理だ」と懸念するのは当然だ。次の図を見ればわかるように、黒田日銀が今年の4月以降、50%もマネタリーベースを増やしたのに、マネーストックはまったく反応していないからだ。

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マネタリーベース(青)とマネーストック(赤)

コアコアCPIは0.6%上がったが、これも頭打ちだ。円安の効果も出尽くしたので、世界的なdisinflationの傾向から考えると、今の0%程度が上限だろう。中間派の宮尾龍造氏も認めるように、異次元緩和で資産価格は上がったが、物価への効果は出ていない。資産価格は80年代後半にも暴騰したが、物価も成長率もほとんど上がらなかった。

こんなことは最初からわかっていた。福井総裁時代にも75%の量的緩和をやってきかなかったのだから、50%できくはずがない。「日銀が気合いを入れればきくはずだ」という山形浩生氏のような「バカの壁」も、黒田氏の気合いが足りないとは言えないだろう。

この状況は、第二次大戦末期のインパールと同じだ。勇ましい司令官の「空気」に全員が迎合し、反対する師団長は更迭される。「必勝の信念」でインフレ予想を生み出せば奇蹟は起こる、と黒田氏はまだ信じているのだろうか。

結果は、あと1年半で出る。さすがに白井氏は、総裁に迎合して節を曲げたら学者生命はおしまいだと気づいたのだろう。論文では「量的緩和の効果はない」と書いておきながら、曖昧な表現で逃げ回る宮尾氏は、まだ「牟田口将軍」の呪縛が解けていないのか。審議委員をやめてからの人生のほうがずっと長いことを認識したほうがいい。