けさの記事の続きのメモ。絶対的な供給不足は先進国では起こりえないが、絶対的な需要不足は起こりうる。そのいくつかの要因。


  1. 自然利子率がマイナスになる:上の図のように投資が減退してIS曲線が左側にシフトし、自然利子率r'がマイナスになると、名目金利の非負制約で、実現できるGDPの水準Y'が自然水準Y*を下回る。これがサマーズやクルーグマンのいうケースだ。

  2. 資本収益率が下がる:実質金利はおおむね資本収益率(資本の限界効率)に等しいので、これがゼロに近づくと、リスク・プレミアム(流動性選好)の分だけ金利がマイナスになる必要がある。これがケインズの指摘したケースである。

  3. 「消費人口」が減る:人口が減少すると、一人あたりの消費は増えても総需要は減る場合がある。労働人口の減少は労働生産性の向上で補えるが、消費意欲の旺盛な世代が減って消費しない老人が増えるのは止められない。

  4. 需要が飽和する:生活が一定の水準に達すると、需要が飽和する。特に住宅取得が一巡し、金のかかる子供が減ると、あまり大きな消費対象がない。新古典派理論では「需要の不飽和」を仮定しているが、それは仮定でしかない。

  5. 所得分配が不平等になる:アメリカのように極端に所得格差が開くと、上位1%はGDPの25%を持て余し、最下層の人々の消費は所得に制約されるので、全体として消費が増えない。

  6. 世代間格差が拡大する:日本のように世代間格差が大きいと、老人が現役世代の税負担を先食いする一方、若い世代の可処分所得が減って消費が増えない。特に60代以上が資産の60%以上をもつ資産格差が大きい。
以上は普通の経済理論でも想定できる現象だ。アメリカには1,4,5,日本の場合は1,2,3,4,6が当てはまるだろう。

資本収益率の低下は生産性を上げれば解決できるが、消費の減退をマクロ政策で止めることはできない。需要の飽和はイノベーションで何とかできる場合もあるが、iPhoneがいくら売れても住宅や自動車には及ばない。

経済政策で是正できるのは、5と6の所得分配である。アメリカの所得格差は異常であり、クルーグマンもいうようにこれが不況を脱却できない一つの原因だろう。日本の世代間格差も異常であり、特に資産格差が消費を抑制していることは明らかだ。これは年金改革や相続税の課税ベースを広げるなどの資産課税である程度、是正できよう。

税制や社会保障の見直しは必要だが、人口減少そのものは止めようがない。アメリカの場合はまだ経済を引っ張る産業があるが、日本の場合は産業構造が「枯れた」状態になっているので、需要不足を超えるイノベーションが出てくるのはむずかしい。いうまでもないが、金融政策は何の役にも立たない。デフレは需要不足の結果であって、原因ではないからだ。