きのうの薬事法の記事には大反響があったので、コメントで教えてもらったことを含めて補足しておく。
毎日新聞は「安全面の重視は当然だ」と称して厚労省の規制を支持している。「認可された医薬品も市販後になって新たな副作用が見つかることは珍しくない」というが、処方箋の通り薬を出す薬剤師が薬害を防げると思っているのか。事故を防ぐチェック体制は、インターネットで電子化したほうが確実だ。

どうしても薬剤師が目で見る必要があるならテレビ電話で質問を受けてはどうか、という提案に対して、田村厚労相は「薬剤師が五感で安全を確認する必要がある」と答えた。テレビではにおいが伝わらないというのだ。ここまで来るとブラック・ジョークである。

本当の争点は、そんなことではないのだ。たとえばAmazon.comで日本から睡眠薬も買える。海外では、処方薬をネットで買うのは当たり前だ。厚労省が本当に国民の健康を考えているなら、1類の薬は通関も禁止すべきだが、そういう話はまったく出ない。官僚にとって大事なのは国民の健康ではなく、薬剤師の参入障壁を守ることだからである。

大衆薬は、問題の始まりに過ぎない。きのうの記事にも追記したが、本丸は医師の処方する処方薬なのだ。次の図のように日本の大衆薬市場は6043億円で、薬全体の6%に過ぎない。これに対して処方薬の市場規模は合計9兆5600億円(薬価ベース)で、大衆薬の15倍である。これは薬価基準に守られているので競争がなく、安く仕入れると大きな利益が出る。

kusuri

大衆薬のネット販売が認められると、その次は(世界で普通に行なわれているように)処方薬もネットやスーパーやコンビニで買えるようにしろ、という要求が出てくるだろう。そうすれば処方薬にも価格競争が起こり、薬価基準も市場の実勢に合わせて見直さざるをえない。それを防ぐことが、薬剤師や製薬業界や医師会の最大の関心事なのだ。

ここまで厚労省が粘る最大の理由も、現在の医療制度を守ることにある。ここで薬価に市場原理が導入されると、今の社会主義的な医療制度が崩壊するからだ。最高裁の判例を役所が破る非常手段に出たのも、社会主義を守る砦となっている大衆薬の規制を守るためだ。

「法律にない禁止規定を省令で定めてはならない」という最高裁判決は、法治国家としては当然のことだが、官僚機構にとっては衝撃だった。法律では抽象的に決めて国会を通し、中身は省令で決めるのが彼らの常套手段だからである。ここで譲歩したら、日本は法治国家になってしまう。厚労省としては、役所が立法する官治国家を守り抜かなければならないのだ。

改正薬事法もこの省令も閣議決定という関門があるので、安倍首相が拒否権を発動できる。もし彼がここで譲歩したら「第3の矢」も終わりだ。日本に法の支配を実現するためにも、首相はネット販売規制をつぶすべきである。