ゆうべの記事の図を見て気づいたが、リフレ派の理論が正しいとすると、異次元緩和では足りない。インフレは持続的な物価上昇なので、マネタリーベースを「2年で2倍」にして2%のインフレになったとしても、そこで終わったら物価は下がる。インフレを続けるには、270兆円では足りないのだ。


アメリカのマネタリーベース残高

これは今、FRBで話題になっている出口戦略でもわかる。出口とはQE3を止めることであり、FOMCが示唆しているのは、しばらくはマネタリーベースを増やし続けることなのだ。この結果、上の図のようにアメリカのマネタリーベースは金融危機前の4.5倍になったが、それでもコアCPI(日本のコアコア)上昇率は年率1.7%と下がった。

だから岩田副総裁の日銀当座預金残高の増加率と予想インフレ率に相関があるという理論が正しいとすると、残高が270兆円になってもマネタリーベースを増やし続けなければならない。フリードマンが言ったように、インフレ政策は麻薬であり、打つのをやめたとたんに禁断症状が出るからだ。

どれぐらい増やす必要があるだろうか。もともと2%前後のインフレだったアメリカでマネタリーベースを4.5倍(年率35%増)にしてもコアCPIは1.7%なのだから、今それが0%の日本で2%に引き上げるためには、少なくとも年率100%ぐらいは必要だろう。つまり日銀はマネタリーベースを倍々に増やし続けなければならない。異次元緩和に出口はないのだ。

今のペースで増やし続けると、マネタリーベースは今年中には200兆円を超えるから、来年は400兆円、再来年は800兆円…という莫大な量的緩和を続けないとインフレは維持できない。だから市場が異次元緩和に反応しないのは当然である。それを当てにして投資すると、1年半後にはハシゴを外されてしまうからだ。

理論的には、2%のインフレが定常状態だとすると、そこで経済が均衡するので日銀が手を離してもその状態は持続する可能性がある。黒田総裁は本気でそう信じているようだが、内閣府の統計にはGDPギャップがマイナスに出るバイアスがあり、今の0%インフレが定常状態である。これ以上やってもインフレは起きないし、起きても持続しない。それはここ半年の実績が証明している。