細かい話で恐縮だが、きのう山崎元氏からコメントをいただいたので、少し補足しておく。問題は彼のダイヤモンドオンラインのこういう記述だ(テクニカル)。
アベノミクスの中核である金融緩和政策は、(1)期待実質金利を引き下げることによって、(2)円安と資産価格の上昇に働きかけ、これらの効果をもって(3)投資と消費を喚起して、(4)景気回復と雇用の改善につなげて、その後に(5)賃金も上がってインフレ予想が定着する、という波及経路で効果をもたらす。
まず「期待実質金利」という言葉は経済学にないが、これは実質金利(名目金利-予想インフレ率)のことだろう。量的緩和で、実質金利は下がるのだろうか。ケインズも述べたように、実質金利は均衡状態では資本の限界効率(資本収益率)で決まるので、中央銀行が動かすことはできない。

ただ不均衡状態では、中銀が実質金利を操作できる場合がある。その一つが自然利子率がマイナスになって名目金利がゼロに貼りつく流動性の罠である。この場合、中銀がインフレ予想を起こすことができれば実質金利は下がるが、ゼロ金利では現金と短期債券が完全代替的になるため、日銀がいくら量的緩和をしてもインフレは起こらず、したがってインフレ予想も起こらない。これが2000年代の量的緩和で証明された事実である。

したがって山崎氏のいう「期待実質金利」は長期金利のことだろうが、これはゼロではないので均衡に近いと思われ、黒田総裁も認めたように日銀は操作できない。異次元緩和では、逆に長期金利は上がってしまった。

いずれにせよ中銀が操作できるのは名目金利だけで、実質金利(自然利子率)は実体経済で決まるというのが、現代マクロ経済学の標準的な理解である。現状ではBEIも下がっており、日銀が「金融抑圧」で長期金利の上昇を抑えているので、むしろ(リスクプレミアムを加えた)実質金利は上がっていると考えたほうがいいのではないか。