浜田宏一氏や黒田東彦氏は、よく「マンデル=フレミング理論によれば、量的緩和で景気がよくなる」という。ものを知らないマスコミは、そういう最新理論があるのかと思うだろうが、これは半世紀前の理論で、現代の日本とは無関係だ。今週のメルマガ(23時配信)の一部を引用しておこう(テクニカル)。


マンデル=フレミング理論というのは固定為替相場の時代にできた「どマクロ」理論(ミクロ的基礎のない1期モデル)です。簡単にいうと開放経済でIS-LMモデルを考えるもので、国際資本移動が完全に自由で実質金利が世界全体でiwに決まっていると考えます。


変動相場制では、財政支出を増やしてIS曲線を右に動かしてIS1にしても、LM曲線との交点で決まる自国の金利iがiWより高くなるので資本流入が起こり、為替レートが上がって輸出が減ります。この変化は実質金利が均衡水準iwに戻るまで続くのでIS曲線は元に戻り、財政政策は無効だとされています。

他方、金融政策で通貨供給を増やしてLM1にすると、ISとの交点の金利はiWより低くなるので、資本流出が起こって為替が安くなり、この変化はIS曲線がIS1に移動するまで続くので、輸出が増えて所得Yは増えます。つまり変動相場制では金融政策は有効なのです(固定為替相場では逆)。

しかしこれは上の図を見ればわかるように、LM曲線のシフトで金利がiwより低くなることで生じる効果です。日本はゼロ金利(図のY軸上で均衡になっている)なので、LM曲線を動かしても利下げ効果はありません。つまり日銀は金利操作という最大の政策手段を失っているので、マンデル=フレミングなんて無関係なのです。

浜田氏や黒田氏の頭にはこういう素朴ケインズ理論が刷り込まれているのかもしれないが、現在の日本のような特殊な状況に半世紀前の理論を持ち出されても困ります。浜田氏などは「日本の若い経済学者はRBCに汚染されている」というが、今どきRBCで金融を語る経済学者なんかいない(RBCには貨幣がないのだから)。

今回の「黒田バズーカ」が逆噴射した原因も、「日銀が国債を買ったら金利が下がる」という1期モデルで考えたからです。市場はめちゃくちゃなオペを見て「黒田総裁は何をするかわからない」と予想し、国債にリスクプレミアムをつけたので、名目金利(実質金利+リスクプレミアム)が上がったのです。

これは黒田氏のいう「景気回復にともなう金利上昇」ではなく、悪い金利上昇です。日本国債のリスクをあらわすCDSのスプレッドは、次の図のように上がり始めています。


日本国債(5年物)のCDSスプレッド(Bloomberg)

このように一部の変数を変えただけで予想が変化してモデル全体に影響を及ぼすので、静学的な「どマクロ」理論でマクロ政策を考えてはいけない、というのが1976年のルーカス批判です。黒田氏のバズーカ砲は、40年ぐらい前の年代物ではないか。