今までは外野で適当なことを言っていたリフレ派も、自分たちが責任を問われる側になってから内部対立が目立つようだ。日銀の副総裁になった岩田規久男氏は「ゼロ金利制約のもとでは、日銀が通貨供給を増やせば物価が上がるといった単純な貨幣数量説は成り立たない」と明言しているのだが、高橋洋一氏は「貨幣数量理論」はいまだに正しいと主張する。

その論拠は、なんと「岩田・翁論争」である。これは1992年から94年にかけて行なわれた論争で、政策金利が2~5%の時期の話だ。金利操作がきくときには、日銀がある程度マネーストックをコントロールできるが、問題は今のようにゼロ金利制約のもとでコントロールできるのかということだ。高橋氏は「2年前のマネーストック増加率でインフレ率が説明できる」と主張する。それが本当かどうか、ゼロ金利時代のデータで見てみよう。

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マネーストック(M2)と物価上昇率(コアCPI)の推移(日銀調べ)

2000年代のM2とコアCPIの動きを見ると、たしかに2年遅れで一致するように見える部分がある。2008年後半から2009年にかけてコアCPIが6%近く下がった時期があり、その2年前(2006年)にはM2が減っている。しかし言うまでもなく、2008年の物価下落の原因は世界金融危機である。高橋氏は、日銀が2006年にリーマンショックの引き金を引いたとでもいうのだろうか?

上の図の青線を2年右にずらしてみればわかるように、フィットしているように見えるのはここだけで、あとはほぼランダムだ。そもそも岩田氏が批判してやまないように、2000年代には日銀はM2をコントロールできなかったのだから、M2とCPIの関係を示しても日銀がCPIをコントロールできる根拠にはならない。

高橋氏も、さすがに吉川洋氏の名目賃金の説明には困ったようで、なんと「賃金上昇率は2年前のマネーで決まる」と主張する。なるほど今年の春闘では、労使は2年前のM2を見て賃上げ交渉するのか。回帰分析は相関関係を示すもので、因果関係については何もいえないというのは統計学の最初に教わる話だが、高橋氏の学んだ東大の数学科では、この程度のことも教えなかったのだろうか。


ちなみにLaLaLanLanLan氏は、高橋氏と同じ手法で、上の図のように1年前の生鮮果物消費量でインフレ率が決まるという推定結果を出している。日銀が2%のインフレ目標を達成するには、青果物の消費量に介入したほうがいいだろう。