このごろ、いろいろな場でアベノミクス支持者や批判者と議論するが、批判者の意見がほぼ同じなのに対して、支持者の意見はいろいろにわかれているので、次の3種類に整理してみた(ややテクニカル)。
  1. 素朴な貨幣数量説:「日銀が準備預金を積み増せば物価が上がる」と信じる19世紀的なマネタリスト。最初に安倍首相を説得したとされる中原伸之氏をはじめ、実業家や政治家はほとんどこれ。渡辺喜美氏のように「経済学の本は1冊も読んだことがない」と公言し、耳学問で日銀バッシングをしている連中が多い。

    渡辺氏の情報源は高橋洋一氏だが、他にも馬淵澄夫氏など、自称経済通の政治家が多い。村上尚己氏のような証券アナリストにも多いが、マネタリーベースとマネーストックの区別もついてないので、学問的には問題にならない。いっそモリタクのようにお笑い芸人に徹したほうがいいのではないか。

  2. インフレ予想:これはやや高級な部類で、浜田宏一氏や岩田規久男氏あるいは飯田泰之氏など、プロの経済学者に多い。しかしマネタリーベースがなぜインフレ予想を高めるのかという理論がなく、現実にも長期金利をみると予想インフレ率は下がっている。ただ長期にわたって(景気回復後も)ゼロ金利を続けることにコミットする時間軸政策は日銀も採用しており、わずかだが効果はあったとされる。

  3. 偽薬効果:量的緩和ではインフレにならないことを認めた上で、「首相が信じて国民に宣伝すれば偽薬効果がある」という考え方。山崎元氏フェルドマン氏がこれで、クルーグマンもこれに近い。たしかに偽薬効果がある一方で、日銀のバランスシートが膨張して、長期金利の上昇や財政破綻のリスクは高まる。
1は問題にならないので、検討に値するのは2の時間軸効果と3の偽薬効果だろう。私も今の長期金利の水準で財政破綻を心配するより、みんなが明るくなるのはいいことだと思う。もちろん長期的には財政リスクが高まるが、何かが起こる前に偽薬効果が消えるだろう。クルーグマンもいうように、偽薬がきくためにはそれを信じて処方する医者が必要なので、黒田・岩田コンビも悪くない。2年後に結果が出たとき辞めてくれれば、万事オーライである。