私はマスコミ業界では「アンチ・アベノミクス」のコメンテーターという位置づけになったようで、このごろ同じような取材がたくさん来る。ほとんど同じ質問が出てくるので、説明する手間を省くためにメモしておく。この問題についての取材は基本的に受けるが、ここに書いたことぐらい理解してから来てください。
  • Q. お金を増やしたらインフレになるのでは?

    A. これは一番よくある質問だが、短い答は「そんな簡単な問題だったらとっくにデフレは終わってるでしょ」ということだ。けさのアゴラこども版でも書いたように、2002年からの量的緩和では日銀がマネタリーベースを2倍近くに増やしたのに、物価は上がらなかった。

  • Q. なぜお金が増えても物価が上がらないのか? 

    A. これもこども版に書いたように、バナナの値段がゼロになったら、いくらバナナを増やしても売れないのと同じだ。これ以上、金を借りたいと思う人がいないから金利がゼロになるので、日銀券を「押し売り」しても借りる人は増えない。

  • Q. 金融緩和したら円安になるのでは?

    A. マネタリーベースの変化率と為替レートには相関がない。物価に影響するのは金利であって通貨供給ではないからだ。2010年から日銀は、大規模な「包括緩和」を行なった。これでマネタリーベースが増えたので(リフレ派の貨幣数量説によれば)円は安くなるはずだが、図のように逆にドル安が進んだ。昨年2月に日銀がインフレの「めど」を発表したときは円が下がったが、すぐ戻ってしまった。

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    マネタリーベースの前年比増加率(青)と為替レート(赤)

    11月後半から始まった安倍氏のリフレ発言で円安が始まったように思われているが、実は図のようにドルやユーロの値上がりは10月から始まっている。これはユーロ危機が一段落したために、リスクオフで円に逃避していた資金が欧米に環流しはじめた――というのが為替トレーダーや経済学者の説明だが、この流れに乗った安倍氏は運がよかった。

  • Q. 日銀が国債を買えば長期金利が下がって緩和効果が出るのでは?

    A. これは理論的にはありうるが、実際には日米ともにそういうことは起こっていない。ただ日銀が100兆円以上も国債を買っていることが相場を安定させ、国債バブルの原因になっている。邦銀は「金利が上がったら日銀が買い支えてくれる」と安心して国債を大量に購入しているが、これは潜在的なリスクを増大させている。

  • Q. 「インフレ期待」を起こせばインフレになるのでは?

    A. 為替や株価は相場の予想で動くが、物価は実需がないと動かない。これは80年代のバブルでも2000年代のアメリカの住宅バブルでもみられた特徴で、両者の乖離が大きいときは危険である。予想インフレ率は、物価連動国債の「ブレークイーブン・インフレ率」で知ることができるが、図のように2006(平成18)年までの量的緩和でほとんど上がっていない。


  • Q. インフレが2%になるまで緩和して2%になったら止めればいいのでは?

    A. ここ14年で平均-0.4%の物価上昇率を2%にするのは、普通の量的緩和では不可能だ。インフレ予想を起こすには、リフレ派のいうように「レジーム・チェンジ」で通貨の信認を毀損するしかない。たとえば日銀が国債を300兆円ぐらい買い占めれば、市場は財政ファイナンスが始まったと考えて国債が暴落し、金利が暴騰してインフレスパイラルが起こるだろう。それが2%で止められるだろうか。

  • Q. 財政政策でインフレが起こるのでは?

    A. 理論的には起こりうるが、かつての麻生政権で行なわれた91兆円の補正予算でも、景気も物価もほとんど変わらず、政府債務が積み上がっただけだった。これは投資需要が弱いので、公共投資が民間投資の「呼び水」にならないためだ。リーマンショックの直後のように大きなGDPギャップが発生したときは財政政策も意味があるが、今のような長期停滞には役に立たない。

  • Q. ではなぜ安倍首相は日銀を脅しているのか?

    A. 単に経済学を理解していないだけだと思うが、円安・株高で支持率は上がったし、TPPや規制改革など政治的に厄介な問題を先送りする目くらましとしても便利だ。ただ麻生財務相は金融政策がきかないことを理解しているので、日銀との共同声明はほとんど何もコミットしていない。今のままでは、よくも悪くも何も起こらない。