バラマキ補正とインフレ目標に続く「3本目の矢」は、成長戦略だそうである。潜在成長率を上げる政策には意味があるが、経産省の張り切っている「新ターゲティングポリシー」なんて有害無益だ。それより今週のEconomist誌におもしろい特集が出ている。

アメリカやEUが不況から抜け出せないのに対して、北欧諸国が元気だ。上の図のように一人当たりGDPは世界の上位を占め、成長率も高い。その最大の原因は政府の効率性だ、とEconomist誌はいう。政府への国民の信頼度は高く、「政府を信頼する」と答えた国民の比率は50~60%とEU平均の2倍近い。

この一つの原因は政府が小さく、地方分権化されていることだ。人口が最大のスウェーデンでも900万人と大阪府ぐらいで、それがさらに小さな州にわかれて予算の独立性も高いので、国民は「足による投票」で地方政府を選べる。政府予算は公共事業や補助金ではなく所得の直接再分配に使われているので、負担と受益の関係がわかりやすい。

北欧といえば「高福祉・高負担」というイメージは過去のもので、スウェーデンの政府支出のGDP比は90年代の68%から今は50%以下にまで下がり、政府債務は欧米よりはるかに小さく、「経済的自由指数」でも英米とほぼ同じになっている。

北欧諸国に特徴的なのは、企業に対する補助金や解雇規制がほとんどない代わり、個人のセーフティネットが手厚いことだ。経営の悪化した企業は守らないで破綻させるが、失業者には職業訓練をほどこし、それを条件として手厚い失業手当を出す。産業別労組の組織率が高く再就職が容易なので、企業の破綻は多いが長期失業率は低い。労働者が失業を恐れないので、90年代の金融危機で自殺率は下がった。

このように企業の新陳代謝を進めて労働人口の移動をうながしたことが北欧の成功の原因だ、という点で多くの経済学者の意見は一致している。北欧の政府は、産業の中心が製造業からサービス業に変わるのに対応して産業構造の転換を促進し、エリクソン、イケア、H&Mといった新しい企業が成長し、知識集約型の産業に移行した。

日本政府の「成長戦略」は、これとは真逆である。ゾンビ企業を延命する一方で、個人に対するセーフティネットは生活保護ぐらいしかない。補助金などの形で間接的に所得補償をしているため、そのほとんどは農協などに中間搾取されてしまう。何より有害なのは、ゾンビ企業が優秀な労働者をロックインして新しい分野への挑戦を阻害していることだ。

幸か不幸か、こうした企業に依存した「日本型福祉社会」は限界に来ており、そう長く維持できない。政府が裁量的な介入から撤退して企業の保護や規制をやめ、個人ベースの福祉社会に移行することが最善の成長戦略である。