300万人以上の日本人が戦死した戦争の中で、戦場に数万人の娼婦がいたかどうかというのは、どう考えても些細な問題である。そして歴史学的にも、それはすでに事実が明らかになっているという意味でtrivialな問題なのだが、NYタイムズが正月の社説で、わざわざこの問題に言及して"Mr. Abe’s shameful impulses"などと罵倒するのは尋常ではない。

事実をいくら提示しても、彼らを説得することはできない。行動経済学的にいうと、彼らは確証バイアスのとりこになって自分の先入観を裏づける事実しか見ないからだ。NYTのタブチ記者との議論でわかったことだが、彼らは自称「元慰安婦」しか取材源をもっていない。太平洋戦線全体で20万人もいたはずの慰安婦の強制連行を証明するのが、戦後50年たってから出て来た数十人の元娼婦の(矛盾した)話だけで、文書はおろか、当事者や目撃者の証言もまったくないことをおかしいとは思わないのだろうか。

さすがにNYTは娼婦の証言だけではまずいと考えて歴史家に話を聞くのだが、それがいつも吉見義明氏だけだ。彼の『従軍慰安婦』(岩波新書)は1995年に出た本で、そのデータはすべて朝日新聞の取材を受けて彼が調べ始めたものだ。つまり最初から確証バイアスが入っているのだが、それでも事実はごまかせない。彼は1997年の「朝まで生テレビ」で「日本の植民地(朝鮮、台湾)については、強制連行を示す資料はない」と明言した。

これで歴史学的には結論が出たのだが、この発言に対する非難が殺到したためか、彼は広義の強制連行はあると話をすり替えた。橋下徹氏に対して吉見氏が出した抗議声明が、事実を率直に示している。
日本・朝鮮・台湾から女性たちを、略取・誘拐・人身売買により海外に連れて行くことは、当時においても犯罪でした。誘拐や人身売買も強制連行である、と私は述べています。実際に誘拐や人身売買を行った者が業者であったとしても、軍・官憲がこれら業者を選定して女性たちを集めさせたのであり、また、誘拐や人身売買であることが判明しても、軍は業者を逮捕せず、女性たちを解放しなかったから、軍には重い責任がある、と私は述べています。
つまり吉見氏のいう「強制連行」とは、民間業者の「誘拐や人身売買」のことなのだ。もちろんそれは人道的にはよくないが、70年たってから日本政府が謝罪すべき問題とは思えない。ところがNYTはいまだに軍が「奴隷化」したと信じ、"Japanese military had raped and enslaved thousands of Asian and European women in army brothels"と断定している。

その「証拠」は、1月1日のNYTにも掲載されたスマラン事件の証言だ。たった1人のオランダ人元娼婦の証言で、朝鮮人慰安婦について何を証明しようというのだろうか。日本のメディアは、朝日新聞を含めて、強制連行の証拠はないということで一致している。それを知らないのは海外メディアだけだ。

韓国を説得することは不可能なので、アメリカがこの問題の鍵を握っている。国務省は「この問題を蒸し返すのは政治的に得策ではない」と日本に助言しているが、事実は知っている。安倍首相は、村山談話を見直して「安倍談話」を出すそうだが、アメリカ国務省とも協議して、この問題を戦略的に考えてほしい。