けさ某テレビ局の取材があり、某党の関係者からもお問い合わせをいただいた。高橋洋一氏にミスリードされている人が与野党ともに多いようなので、細かいデータを補足しておく(テクニカル)。

まず予想インフレ率は、物価連動国債の利回りから計算できる。高橋氏は「マネタリーベースはインフレ予想に影響する」といっていたが、これも嘘である。物価連動国債の発行が始まった2004(平成16)年からのデータしかないが、日銀が量的緩和を激しく行なった2002~6(平成14~8)年に、予想インフレ率をあらわすブレークイーブン・インフレ率(図の黒線)はほとんど反応していない。

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予想インフレ率


また「物価はコアCPIで見るべきだ」という話がよくあるので、次に消費者物価指数(食料及びエネルギーを除く)の時系列データを示しておこう。これは通称コアCPI(日本ではコアコアCPI)と呼ばれる指数で、日銀がオペの基準にしているといわれる。図のように1999年からずっとマイナスが続いているが、日銀は2000年8月にゼロ金利を解除した。これは明らかな失敗で、翌年すぐゼロ金利に戻した。

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コアCPIの変化率(前年比%)

しかし高橋氏のいう「量的緩和の解除でデフレが悪化した」という事実は、図からは読み取れない。日銀は2006年3月、量的緩和を終了し、2007年7月から政策金利を引き上げたが、そのあとコアCPI変化率は上がっている。リフレ派は「日銀にはコアCPI変化率がゼロになると引き締めるデフレ・バイアスがある」というが、2008年にCPIが下がったのはリーマンショックが原因である。


ベースマネーと為替レート

上の図は、ニコ生でも見せた「ソロス・チャート」だ。ベースマネー(マネタリーベース)の日米比と為替レートの相関は、90年代まではかなりあったが、量的緩和の始まった2002年ごろからはほとんど見られない。

要するに日銀の供給するマネタリーベースは、予想インフレ率にもCPIにも為替レートにもほとんど影響がないのだ。この状態でインフレ予想を起こすことはきわめて困難であり、株式などを日銀が買う「包括緩和」の効果も限定的だ。むしろ田村秀男氏がいうように、日銀が国債を買い支えるという期待感が「国債バブル」を膨張させ、円高を助長している疑いが強い。

高橋氏は「マネーストックは増えなくてもマネタリーベースを増やせば予想インフレ率が上がって円安になる」というが、日銀にそんな「遠隔作用」ができるなら、何もしなくても「きょうはマネタリーベースを*%増やしました」というだけで、物価に影響を与えることができるだろう。「おれは福井総裁に**と言ってやった」という彼のホラ話が、自民党から維新の会まで影響を与えているのは困ったものだ。