日米同盟vs.中国・北朝鮮 (文春新書)橋下市長からコメントをいただいたが、非常にデリケートな問題なので整理しておく。彼もいうように、非核三原則を見直すのは大問題である。本書でもアーミテージ元国務副長官は、沖縄返還のとき核持ち込みの密約があったことを否定していないが「過去の問題」だとし、第7艦隊に搭載していた核トマホーク(TLAM-N)は「完全に不要となった」ので、オバマ大統領が退役を決めたと明言している。

したがって「持ち込ませず」は問題ではないが、「持たず、作らず」は重要な問題である。これについては、アーミテージは日本の核武装に強く反対し、「日本が核武装すれば、韓国の日本に対する好感度は一夜にして吹き飛び、彼らもまた核武装計画に走ることでしょう」(p.211)と警告している。日本政府が「核武装したい」といった途端に(核燃料の再処理を平和利用に限定して認める)日米原子力協定は破棄され、日本はNPT違反で制裁を受けるだろう。

これが日本と海外の認識が大きくずれている点である。アメリカにとっては民主党政権が9月に打ち出した「原発ゼロ」政策はプルトニウムの軍事転用=核武装を意味するので、激しく反発した。最初のうち、平和ボケの民主党は何が問題なのかも理解できなかったようだが、1週間もたたないうちに一転して、もんじゅも六ヶ所村も大間のMOX燃料もすべて現状維持という結果になった。

しかし中曽根や正力が原発を日本に導入した目的が将来の核武装だったことは、外交文書でも明らかだ。自民党内には、今でも「将来の核武装のために原子力は必要だ」という声が根強い。これは憲法改正や日米同盟ともからむ大問題なので、今のところ表に出てこないが、自民党政権になったら出てくるだろう。

核武装論には2種類あり、一つは伝統的な「自主防衛論」である。これは憲法を改正して日米同盟を解体し、日本が独自の核武装をしようというもので、現実的な政策とはいえない。しかしアジア情勢の変化やアメリカの国内事情(共和党には孤立主義も根強い)でアメリカのほうから日米同盟を解消する可能性はゼロではない。この場合、日本が単独で中国の核兵器に対抗するには核武装しかないだろう。

いずれにしても遠い将来の話で、いま日本が核武装することは可能でも賢明でもない。しかし核武装の体制を整えるには5年以上かかるし、国民的合意の形成にはもっとかかるだろう。長期の原子力政策を考えるときは、核燃料サイクルと合わせて核兵器の問題も考えておく必要がある。