にわかにTPPが争点に浮上してきた。野田首相が「次の総選挙のマニフェストに入れる」といったのに対して、民主党内では反対論が噴出している。他方、自民党の安倍総裁は「聖域なき関税撤廃ならTPP参加はありえない」という曖昧な表現を繰り返している。党内に賛否両論を抱え、これが争点になると党内がまとまらないからだ。逆にいうと、自民党の弱点であるTPPを争点にして闘うのが野田首相のねらいとすれば、なかなか巧妙な戦術である。

もともとTPP交渉参加は、争点になるような問題ではない。外交交渉への参加は首相の権限であり、閣議決定も必要ない。かつてのGATTのときも、その結果として出て来た米の関税化についてはもめたが、交渉参加が争点になったことはない。「交渉に参加したら負けるから参加しない」などと言っていたら、外交はできない。むしろ参加が遅れれば遅れるほど、負ける確率が高くなる。最近メキシコとカナダが正式参加し、日本に残された時間は少ない。

しかしTPPは、政治家を見分ける試金石としては便利だ。JBpressにも書いたように、民主・自民にまたがってほぼ半数の政治家が「TPP交渉参加反対に関する国会請願の紹介議員」のリストに掲載されている。両者の争点は、次のような図式で整理できよう:

  • 自由貿易か保護貿易か
  • 規制改革か統制経済か
  • 消費者の利益か業界の既得権か
  • グローバル化かナショナリズムか
  • 開かれた社会か閉じた社会か

    アプリオリに前者がよくて後者がだめと決めつけることはできない。貿易自由化は、消費者にとっては無条件にいいことだが、企業にとってはプラス・マイナス両面がある。グローバル化を進めたら、中国に負ける業界も出てくるだろう。特に「聖域なき関税撤廃」で最大の影響を受けるのは農業だ。しかし浅川芳裕氏もいうように、高率の関税は日本から食品を輸出する際の障害になっている。

    TPPを争点にすれば、民主党が分裂するおそれがある一方で、自民党の中の自由貿易派や日本維新の会などの第三極と連携できる可能性もある。今度の総選挙を機にTPPの賛否で政界を再編すれば、日本の政治は一挙にわかりやすくなるだろう。