けさの記事の続き。橋下氏の問題提起は重要だが、ややこしい話なのでここで補足しておく(非常にテクニカル)。

私が「規制委員会は新基準をつくる機関。それまでは現基準で運転するのが当然。建築基準法を考えれば明らかでしょ」とコメントしたのに対して橋下氏
法理論的には可能。基準を変えるのは政治、立法府。あとはそれが憲法違反かどうかだけ RT @ikedanob: 後者については原子炉等規制法の改正で「バックフィット」が導入されたが、前者[建築基準法の遡及適用]はありえない。
と答えた。確かに、こういう立法が可能なケースがある。たとえば戦争が迫って原発が攻撃されるリスクがあるとき、通常の規制をオーバーライドする有事立法によって「主務大臣の命令で運転を停止できる」と定めるような場合だ。これを敷衍すれば、原発事故が起きて、それと同じ事故が再発するリスクが差し迫っている場合、電気事業法や原子炉等規制法とは別に「原子力緊急事態法」のようなもので経産相にプラント停止の権限を与えることも考えられる。

橋下氏もいうように、これは立法的には可能である。今回のように混乱するぐらいなら、原発緊急事態法をつくったほうがましだが、おそらく法制局が許さないだろう。彼らは憲法の制約を厳格に判断するので、東電国有化にも「他の電力会社に賠償を分担させるのは財産権の侵害だ」と待ったをかけたぐらいだから、このように国家が恣意的に財産権を侵害する立法を許すとは思えない。

航空法では、海外で墜落した飛行機に欠陥が見つかった場合には、同型機の運行を止めるように勧告する規定がある。これに準じた規定が、原子炉等規制法にあってもいい。たとえば福島第一のようなマークⅠの原子炉が事故を起こした場合には、ただちに同型機を止める命令を出せるようにするのだ。そのほうが今回のようにすべての原発が無期限に止まるよりましだし、実質的な安全性が担保できる。

しかし今はそういう有事法制はないのだから、現在の法律と技術基準でやるしかない。建築基準法と同じく、新基準ができるまでは現基準で運転すべきで、原発の停止を命じるのは違法である。経産省もそれを知っているから、ストレステストのメモでは適法に運転が行なわれていると明記し、運転の中止を求めていないのだ。橋下氏が今でも技術基準を踏み超えられるかのようにいうのは、立法論と解釈論を混同している。

それでも「法律では想定していなかった非常事態だから、法改正の時間がないので緊急に止める」という政治判断も論理的にはありうるが、けさの記事でも書いたように実質的なリスクは低く、そういう超法的措置を発動するような状況ではない。菅氏のように調子に乗ってそういうことをすると、今のように大混乱になる。

今年の原子炉等規制法の改正で、バックフィットの規定ができるなど一種の遡及適用が可能になったのは、こうした予想外の事態を想定したものと考えられるが、法改正でやるのはそこまでだろう。原発のリスクは、それほど特別なものではないからだ。現実的なリスクとしては、戦争や震災のほうがはるかに甚大な人的被害をもたらす。

だから戦時や災害時の有事立法こそ必要だが、これには「人権侵害になる」とか言って社民党や共産党が反対してきた。ところが彼らは電力会社の財産権がいくら侵害されても、何もいわない。それは彼らが資本主義社会の崩壊を望んでいるからだ。橋下氏はそういう反社会的勢力とは違うのだから、関西電力の筆頭株主として政府がその企業価値を毀損することに反対し、再稼働を進めるべきだ。