imagesきのうは大阪の読売テレビで、話題の橋下市長を中心にした討論番組に出た(関西ローカル)。大部分は大阪ローカルの話だったが、かえって彼の本質がよくわかった。

東京でもっぱら話題になる君が代・日の丸問題について、私が「マスコミはそこだけ取り上げるので、話がイデオロギーがらみになる。戦術として得策ではないのでは?」と質問すると、彼は「ルールでは決まってるが、組合が従わなくてもいいと言ったら従わないという状況を認めたら、市長が何を決めても職員が動かない」と答えた。

つまり法律や条例より「コンセンサス」やら「慣例」やらが優先する状態を改め、法の支配を徹底して意思決定のスピードを上げることが、決定できる民主主義のポイントなのだ。「それじゃ菅さんの『要請』で浜岡原発を止めた民主党政権の不透明なやり方をあなたが容認するのはおかしい」と私がいうと、彼は「おっしゃる通り。法的な手続きを尽くすべきだった」と認めた。

これはなかなか教訓的だと思う。民主党政権がグダグダになっている原因は、官邸や党執行部が「コンセンサス」を求めてむやみに時間をかけることだ。消費税なんて三党合意してから両院議員懇談会でまた議論して、「幹事長一任」とかいう多数決でもなければ全員一致でもない訳のわからないことをやっている。これでは日本の政治は何も決められない。法の支配は、橋下氏の有効な武器になっているのだ。

もっとおもしろかったのは、「子どもの家事業」という超ローカルな話題だ。これは大阪市が全額補助(1.6億円)して無料でやっている補習授業だが、市がこれを廃止する方針を打ち出した。保護者がそれに反対しているが、橋下氏は誤解だという。同じような「留守家庭児童対策事業」というサービスは有料なので、両方を一本化して市が1人2万円の「クーポン」を出すというのだ。

これは小さな話のように見えるが、日本初の教育バウチャーという大ニュースである。私が「それはすごい。世界的にもほとんど実施されていない教育バウチャーを大阪市がやれば、教育の大転換のきっかけになる」と言ったら、橋下氏も「供給側に補助金を出すのではなく消費者に出して選択させることが今後の公的助成の基本だ」と強調した。

日本の社会保障が行き詰まっている原因は、企業やコミュニティなどの中間集団を政府が補助してセーフティネットにする「日本型福祉社会」が財政的に支えきれなくなっていることだ。これを打開するには、政府が個人を守る(世界の標準的な)方式に変えて所得再分配を合理化し、教育や社会保障に寄生しているシロアリを駆除するしかない。橋下氏の本質は、こうした徹底した個人主義であり、それはよくも悪くも伝統的な日本の価値観とはまったく違う。これは君が代や原発再稼働よりはるかに重要な問題だ。

その意味で橋下氏のやっている大阪市の無駄削減は第一段階であり、次には国政へのねらいがあるのではないか――という記者の質問には、彼は「国会議員になる気はまったくない」と断言した。私も自由都市の伝統のある大阪から、世界の都市と競争する新しいモデルを創造するほうがおもしろいと思う。