GEPRには、初日だけで1万人を超えるアクセスがあった。コメントを見ても、政府の情報が信用できず、メディアの出す情報がいい加減なため、「正確な事実」に飢えているような印象を受ける。自称ジャーナリストはバズビーをかつぎ回って自滅したので、肥田舜太郎氏のような共産党員の評価が相対的に上がっているようだが、彼の話も党派的なので真に受けるのは禁物である。

肥田氏は日刊SPA!で「内部被曝と外部被曝は違う」とかいう話をしているが、両者に本質的な違いはない。福島で高濃度の放射性物質が飛散したのは発電所のまわりの半径数kmだけなので、放射性物質を吸引することによる内部被曝は考えられない。福島県の調査でも、今後70年間の預託線量が最大2~3mSv、平均1mSv未満である。

「下痢が続いて止まらない、しばらくしたら口内炎が出るとか、のどが腫れて痛いとか。多くの母親が心配していたのは子どもの鼻血です」という肥田氏の話は、朝日新聞が「プロメテウスの罠」でも紹介していたが、医学的には何の根拠もない。放射線が人体に影響するのは、原子をイオン化して電荷を変え、DNAの結合を切断する遺伝子レベルの変化であって、下痢とか鼻血のような障害とは無関係である。

ある人が「放射線を浴びた」という事実と、彼が「鼻血を出した」という二つの事実があったからといって、前者が後者の原因だという因果関係の根拠にはならない。それを証明するためには、放射線が鼻血の原因になるという生物学的メカニズムと、強い放射線を浴びた人に鼻血を出す人が多いという疫学的データが必要である。町医者が1人の患者の例から言えることは何もない。

こんなことは言うまでもないと思っていたが、「お待たせしました。福島の新生児の中から、先天的な異常を抱えて生まれて来たケースについてスペシャルリポート&インタビューします」と「スクープ」した岩上安身氏だけでなく、朝日新聞やNHKまで科学リテラシーがないのは困ったものだ。

ニューズウィークにも書いたことだが、このように「あれも放射能これも放射能」と騒いでノイローゼになることが、原発事故による健康被害の最大の原因である。

追記:一挙に数Sv以上の致死量の放射線を浴びた場合は、幹細胞が死んで血球の減少や下痢、血便などが起こることもある。原爆の被爆地で起こったのはこういう急性被曝で、今回の事故とは無関係。