アメリカで名目GDPターゲティングをめぐる論争が始まっている。これはFRBが実質GDP+物価水準の目標を決め、成長率の低いときはインフレにし、成長率が上がったら物価を下げるものだ。これは複雑なインフレ目標で、80年代にFRBのボルカー議長が(実質的に)とった政策だという。これを以前から主張していたのはScott Sumnerだが、最近Christina RomerKrugmanも好意的なコメントをしている。

これに対して、John TaylorEconomist誌は否定的だ。目標を設定するのはいいが、どうやって実現するのか。物価を下げる手段はよくわかっているが、上げる手段はわからない。もしNGDPターゲットを法的に義務づけたら、FRBはそれを実現するために異常な超緩和政策をとるだろう。

・・・あとは読まなくてもわかる。10年前に日本で行なわれた、なつかしいリフレ論争の再来である。しかしさすがにみんな日本の経験を知っているので、クルーグマンでさえ慎重だ。
As I see it — and as I suspect many people at the Fed see it — the basic point is that to gain traction in a liquidity trap you must either engage in huge quantitative easing, raise the expected rate of inflation, or both. Yet saying this is very hard; people treat expansion of the Fed’s balance sheet as horrible money-printing...
ゼロ金利では量的緩和がきかないので、FRBが株式や不動産などを買いまくって「インフレ気分」を起こすしかない。しかし本当に誰もがインフレを予想するようになったら、それを止めることができるのだろうか――結局、問題は中央銀行がどうやって予想形成をコントロールするのかという日本と同じ問題に帰着するが、誰もその答を知らない。

フリードマンが述べたように、金融政策で大事なのは裁量ではなくルールで運営することだ、とテイラーはいう。NGDPはそれを実現する手段がわからないため、あらゆる政策手段を動員するdo-whatever-it-takesアプローチになって、金融政策のルールを破壊する。そういうヤケクソみたいな政策ではなく、FRBは本当のボルカーの政策に回帰すべきだ――テイラールールに。