ウォール街に始まった「反格差デモ」は全世界に広がっている。日本でも200人ぐらいが集まって東電や経産省に向かってしょぼいデモをやったようだが、東電も経産省も所得格差とは何の関係もない。

先日の記事でも書いたことだが、アメリカで格差が拡大している最大の原因は、グローバル化である。製造業が新興国に拠点を移して労働需要が減り、労働人口が労働生産性の低いサービス業に移行したため、生産性に見合って賃金が低下しているのだ。これは限界生産性原理の予想することであり、実証的にも確かめられている。

もう一つの要因は、skill-biased technical change(SBTC)と呼ばれるものだ。コンピュータの普及によって生産性は飛躍的に上がったが、ITは知識労働と補完的で単純労働と代替的なので、生産要素にバイアスをもたらす。ITを使う高度なスキルが稀少になって知識労働者の所得が上がる一方、ITで置き換えられる事務処理の需要が減って、単純労働者の所得は下がるのだ。

グローバル化そのものが格差の原因になっているというより、先進国と新興国の国際分業の拡大によって、従来は国内で起こっていたSBTCによる格差が世界的規模に拡大したと考えられる。たとえば日本の単位労働コストは中国の約2倍だから、海外生産が増えると製造業の賃金は中国に近づいてゆく。この趨勢は不可逆なので、貿易や資本移動を規制しない限り止めることはできない。

これはスペンスもいうように、基本的には望ましいことである。世界には年収が3000ドル以下のBOPと呼ばれる層が40億人もいる。「1%の金持ちが富を独占している」と騒ぐデモに参加している人々は、世界の中では富裕層なのだ。GlobalRichListによれば、2003年の為替レート(1ドル=110円)で年収550万円あれば、上位1%に入る。今なら400万円あれば、あなたは世界の1%の富裕層だ。

しかも日本の所得格差(ジニ係数)は、図のように先進国の平均程度で、最近やや上がっているが、トップのアメリカの半分以下である。アメリカ人が「格差反対」を叫ぶのはわかるが、日本人がいうのはナンセンスだ。


日本の最大の格差は、こうした賃金格差ではなく、生涯所得で最大1億円にも及ぶ世代間格差である。しかし年金の支給開始年齢を15年以上先に68歳に引き上げるだけでも大騒ぎになり、野田政権は問題を先送りする方向だ。格差反対のデモをするなら、民主党本部や厚労省にしたほうがいいのではないか。