先週の記事の続きでテクニカルな話なので、為替に興味のない人は無視してください。

私がツイッターで、中村哲治参議院議員に
国力と為替レートは関係ない。円が初めて80円を切ったのは1995年のバブル崩壊期。今の円高の原因もデフレ。 RT @tnatsu: 同意。RT @NakamuraTetsuji: 相対的に強い経済の国の通貨が高くなるのは当たり前。私が円売りドル買い介入よりも新成長戦略
とコメントしたのに対して、中村氏から
デフレであるから他国と比し国力が劣っているということではない。日本は対外純資産黒字・経常収支黒字。ゆえに円高圧力が常に加わっている。池田信夫氏が「国力と為替レートは関係ない。」と言い切られるならば根拠を示して欲しいところ。
という反論があったが、ツイッターでは説明しきれないので補足しておこう。中村氏のいう「相対的に強い経済の国の通貨が高くなる」というのは、「強い経済」というのが何を意味するかによるが、それが成長率や生産性を意味するとすれば、今の日本は「強い経済」とはいえないだろう。そういうもので為替レートが決まるという経済理論は存在しないし、現実にもそうなっていない。

「日本は対外純資産黒字・経常収支黒字。ゆえに円高圧力が常に加わっている」ということもない。まず対外純資産は為替レートとは無関係である。経常収支が黒字になると通貨が強くなるという理論は、1970年代まではあったが今はない。もともと変動相場制は、フリードマンなどが経常収支の不均衡を是正するメカニズムとして提案したものだが、実際にはそうならなかった。

その原因は、貿易の決済のための実需は外為市場のごく一部しかなく、為替取引(5兆ドル/日)の99% は投機的取引だからである。ここでは通貨は株式や債券と同じ金融資産だから、経常収支なんか関係なく、重視されるのはそのインカムゲイン(金利)とキャピタルゲイン(値上がり益)だ。

金利は名目でみると日本は低いが、デフレなので実質金利は高く、日米でほぼ均等化している。値上がり益は予想に依存するが、今回のようにFRBが時間軸政策で低金利にコミットすると、ドルが下がるという予想が支配的になる。それが今回のドル安の原因である。

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円/ドルの名目レート(赤・左目盛)と実質実効レート(青・右目盛)

名目レートをみると「歴史的な円高」だが、実質的にはそうでもない。図のように円の(物価上昇率などの影響を除いた)実質実効レートは、1995年に比べて3割近く下がっている。名目レートが上がったのは、この16年間にアメリカの物価が約40%上がったのに対して日本がほぼ0%だったためだ。購買力平価の簡単な指標であるビッグマック指数でみても、日本は4.08ドル、アメリカは4.07ドルで、円は高くも安くもない。

このように資産市場としてみると、現在の為替レートは合理的な水準で、一時的要因でドル安ではあるが円高ではなく、まだ円は強くなる余地がある。1日に5兆ドルが動く外為市場の動きを数千億ドルの為替介入で阻止することはできない。