ジョーンズ マクロ経済学 1 長期成長編きのうの記事のバナナの話が好評だったので、インフレやデフレがどうやって起こるかについてのやさしい教科書を紹介しておこう。学部で教える「どマクロ」と大学院で教える動学マクロはまったく違う理論で、後者をやさしく解説した学部レベルの教科書は、私の知っているかぎりマンキューしかないが、本書はそれよりやさしく(差分方程式も使わないで)動学マクロの考え方を紹介したものだ。

著者の専門は上巻の成長理論だが、下巻(未刊)でも潜在成長率の概念を強調している。これは資本・労働と生産性で決まるリアルな概念(マンキューのいう自然水準)で、金融政策で潜在成長率を上げることはできない。現在の日本の潜在成長率はほぼゼロと推定されており、この上限を上げないと不況もデフレも脱却できないのだ。

短期の理論でも従来のIS-LMではなく、中央銀行が名目金利を調節するというモデルで解説している。図のように金利i*は通貨供給と資金需要の一致する点で決まるが、中央銀行は通貨供給ではなく金利を目標として金融調節を行なう。資金需要は実体経済の要因で大きく変動するため、通貨供給を安定化しても経済は安定しないからだ。
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ここで資金需要が大きく落ち込み、図の点線のようになると、金利はゼロになってしまう。量的緩和で通貨供給をMからM'に増やしても、ゼロになった金利は下がりようがないので、何も起こらない。バナナが売れ残った状態で、いくら供給を増やしても流通するバナナは増えないのだ。これが日米経済の置かれている状況で、企業部門が貯蓄超過(返済超過)になっているので、資金需要はマイナスだ。

このためFRBも量的緩和(QE)をしたが、図から予想される通り効果がなかった。短期的な解決策は、政府が資金需要を追加して実線の水準に戻すことしかない。つまり財政政策(財政赤字の拡大)だが、アメリカでは与野党ともに緊縮財政をめざしている。これが今回の世界同時株安の一つの原因だ――というのがクルーグマンの分析である。

このように通貨ではなく金利をコントロールするのが新しいマクロ経済学と金融政策の特徴だが、その弱点は現在のようにゼロ金利になったら有効な政策がないことだ。残る変数は予想インフレ率(を上げて実質金利を下げること)なので、日銀の量的緩和も時間軸政策も予想形成に影響を与えようとする政策イノベーションで、FRBもまねたが効果は限定的だ。インフレ目標は、このように中央銀行がそれを実現する手段がない限り、何の意味もない。