エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書 356)首相が記者会見をして「脱・原発依存」の方針を打ち出したが、時期もわからない中身のない話だった。彼が宣言するまでもなく、日本で原発の新規建設は当分、無理であり、脱原発は進むだろう。問題はそれを何で埋めるのかということだ。

けさの朝日新聞は1面で「原発ゼロ社会」なるものを提言しているが、その中身はまた「原発か自然エネルギーか」という勧善懲悪のプロパガンダである。本書はこうした通俗的な話とは違い、エネルギー問題のプロが客観的データをもとに日本のエネルギー戦略を論じたものだ。

朝日新聞のいうように原発をゼロにしたら電力供給は3割減るが、再生可能エネルギーでそれを埋めることができるのだろうか? 著者も指摘するように、そんなのは何度も繰り返されたお伽話である。再生可能エネルギーのブームが始まったのは70年代の石油危機の後だが、それから30年以上たっても再生可能エネルギー(水力を除く)は日本の発電量の1%しかない。30年間で1%にしかならなかった「死に筋」の技術が、今後その30倍になるはずがない。2030年で発電量の5%ぐらいだろうというのが著者の見立てだ。

もちろんドイツやスペインのように固定価格買取を導入して巨額の補助金を投入すれば、再生可能エネルギーを増やすことはできる。しかしそれによってエネルギー産業は農業と同じ補助金産業になり、国家統制が強まる。そして補助金産業は、補助金が切れると崩壊する。スペインの財政破綻で「グリーンテック・バブル」のはじけた欧州では、太陽光発電所の建設がストップしてしまった。

原発の穴を埋めるのは再生可能エネルギーではなく、ガスタービンだというのが著者の予想である。「シェールガス革命」によってその単価は石炭より安くなり、IEAは「ガスの黄金時代は来るか?」という報告書を発表した。それによると、シェールガスも含めた天然ガスの埋蔵量は250年以上あるという。

しかもコンバインドサイクル(GTCC)で発電すれば、熱効率は石炭火力の1.5倍でCO2の排出量は2/3削減できる。既存の石炭火力の半分をGTCCに置き換えれば、原発を全廃してもCO2排出量は変わらない。もちろん太陽光や風力に比べれば多いが、GTCCは1基で最大100万kW以上出るので、原発と同じ発電能力がある。原発を減らすなら、GTCCを増やすしかないのだ。1年かかって原発の10時間分ぐらいしか発電できない「メガソーラー」はオマケでしかない。

しかし日本では、天然ガスのコストが高い。それはパイプラインがなく、液化してLNGタンカーで運んでいるからだ。2000年ごろ、日本政府はエクソンモービルやロシア企業と共同で、サハリンからのパイプライン敷設を計画したが、電力会社が拒否したために頓挫した。サハリンとの距離は2000km程度なので、世界の常識ではパイプラインで輸送するのが効率的なのだが、これが敷設されるとパイプラインの途中で分岐して電力会社以外の企業がガスを使えるようになることを電力会社がきらったからだ。

だから首相が本気で脱原発を進めるつもりなら、再生可能エネルギー法案なんかどうでもよく、サハリンとの間に天然ガスのパイプラインを敷設すべきだ。これによってガスはさらに安くなり、多くのユーザー企業や独立系のPPSに利用可能になり、電力自由化も進む。市場メカニズムによって原発を駆逐することが、自由経済におけるまっとうな経済政策である。